Never Say Die/CLIFF RICHARD~年輪と男の絶妙なクロス
CLIFF RICHARDというアーティストは80年代のヒットチャートにおいては、突然現れた謎のおじさんだったかもしれない。
だがテクノ、パンクからニューロマンティックに時代が移り、ブリティッシュ・インヴェイジョンの波が押し寄せる中で気を吐いたこの曲は、PVもその曲も、当時のポッと出の若造ではけっして歌いこなせない渋みと深みを持っていた。
たとえるなら、よれたトレンチコート、紙巻ではない太い葉巻、氷も入れないウイスキー。
そんなアイテムが似合う男ではないと歌いこなせない曲であり、演じられないPVの演出だった。
2:45のあたりのGetOutの瞬間、天を仰ぐところの洗練されたしぐさ。
これは積み重ねた年輪と、だがまだ男として枯れていない世代の、絶妙なクロスが生み出した大人の色気だと思う。
ちなみに当時のCLIFFのライブがまたかっこいい。
バンドスタイルではなく、楽器を持たずに歌うにしては当時を席巻した派手なダンスを入れるわけでもない、
だがそんなライブの中に、彼のこれまでの経験で得た「カッコよさ」がほとばしっている。
そりゃそうだ。
なんたって歴史が違う。
ニューロマの連中や派手なダンスパフォーマンスがムーブメントになり、ヒップホップの芽が吹きはじめた頃、CLIFFはすでに円熟していたのだから。
そうでなければ誰もがもみあげをそり落としたあの時代に、幅広いもみあげでステージでオーディエンスを魅了できるわけがないではないか。
あの幅の広いもみあげを見て、少年だった私はいつも思っていた。
髭が濃そうだな、と。
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I Want You/GARY LOW~情報の少ない時代のスマッシュヒット
Gary Low - I Want You (Juke Box Star 1983)
スマッシュヒットというやつは定義が難しい。
大ヒット曲というのはビルボードとかわかりやすいチャートのわかりやすい上位にランクされ、ちまたに溢れて発売されるレコードのジャケットにもその栄誉が記された。
それに対してスマッシュヒットとうたわれた曲は、いったいどこの国の人がどこのチャートでヒットさせた曲なのかがわからないものも多かった。
インターネットでサクサク検索できる今の時代とは違い、80年代の洋楽情報ソースは限られていた。
専門誌にレコード評が載っていてもわずかなもので、МTVで流れるPVは当時は演奏シーンのないものも多く、はたしてどんなプロフィールの持ち主なのかわからない。
そしてその多くは一発屋で、二曲目の情報などないのだから、どこでどうすればその素性とその後を知れたというのだろうか。
GARY LOW という人もまったくよくわからないままだったが、妙に軽快なイントロとどこか哀愁漂うAメロで耳に残る一発をはなった存在だった。
結局アルバムを見つけて買ってみたのだが、今となってはこの曲以外はまったくメロディが浮かんでこない。
だけどこの曲だけは今もふと口ずさんでしまうことがあるほどなのだ。
今となってはこうして歌う姿も見られますが、明らかに「ミュージシャンというよりは歌手」という立ち居振る舞いですね。
デュラン・デュランがUnion Of The Snakeをリリースした年にこの曲が出ていると思うと、なんだか同じ時代とは思えない。
当時は「洋楽」というワードでひとくくりにされていたが、明らかにマーケットもチャートも別の舞台だったのだろう。
ちなみにスマッシュヒットという単語の本来の意味は大ヒットという意味らしい。
この言葉が英語圏でいうスモールヒット的な意味合いで使用されているのは、日本だけらしいです。
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You're My Heart, You're My Soul/MODERN TALKING~哀愁あふれる絶品のダサさ
Modern Talking - You're My Heart, You're My Soul (Official Music Video)
日本人の遺伝子には、哀愁を愛でるなにかが潜んでいる。
子供の頃、縁日の見世物小屋の前で聴いた天然の美は私たちの胸に小さく、そして老けない棘を刺したのだ。
80年代の洋楽の中でも突如として売れる謎のヒット曲の中には、その要素が重要なカギを握っていたものが存在した。
FLA LIPPO LIPPI や ALPHAVILLE はまさにそういうポイントを押さえていた気がする。
そんなカテゴリに属するのが MODERN TALKING だろう。
“あなたは私の心、あなたは私の魂”…なんともストレートで、恥ずかしいようなこのタイトルも、哀愁に満ちたメロディに載ると、その魅力は輝いて聴こえた。
だが…なんともPVがダサい。
ちょっとないくらいにダサい。
ここに演歌的なベタな要素を見てしまうのは、日本人だからだろうか。
このメロディを愛するのも、そして演歌を想起するのも日本人だからなんだろうか。
おなじ哀愁あふれるメロディで人気を博した ULTRAVOX あたりと比べてみると、もうなんともすさまじいダサさは否めない。
ちなみに98年のリメイクがこんな感じだった…
Modern Talking - You're My Heart, You're My Soul '98 (Video - New Version)
…ことを思うと、なんというか時代を超越しているというよりは、出遅れている感じなんだろう。
80年代においては70年代のようなノリとファッション、そして90年代も終わりにして、80年代のブリティッシュインヴェイジョンの頃に追いついたのだ。
98年のこのPVのテイストはすでに80年代に第一線にいたバンドたちに消費されつくした…そんなPVのパターンの一つだと思う。
この不器用な洗練されていない感じが、手慣れたオシャレさにのっかってチャートを席巻した、ニューロマンティックとはまたどこか違う奇妙な魅力があると思う。
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リック・スプリングフィールド RICK SPRINGFIELD
RICK SPRINGFIELD といえばその楽曲には究極の安定感があった。
新曲が出たぞとわくわくしてレコード盤に針を落とせば、いつもの RICK が現れる。
Rick Springfield - Human Touch
Rick Springfield - I Get Excited
Rick Springfield - Love Somebody
すなわち…ひとことでいえば全部同じ曲に聴こえるという。
しかしそれは、いつも安心を与えてくれるという意味でもある。
そもそも楽曲のクオリティは水準以上で Human Touch のイントロなんかを聴けば、ひねりを利かせていて、工夫を重ねた軌跡は明らかだ。
だが…曲がサビまで来ると、顔をのぞかせるのは、いつもの RICK のリック節だった。
そんな彼も少しずついろんなテクニックを身に着けたのか、当時のテクノからニューロマという時間の流れを肌身に感じていくうちにその音に影響されたのか、ついに新境地を開いた。
そしてこんなかっこいい曲を生んでしまったというのが Bop 'Til You Drop だった。
Rick Springfield - Bop 'Til You Drop
曲調、アレンジともにブリティッシュ。インベイジョンの顔ぶれのような仕上がりで、おまけにPVはかつての近所のカッコイイおにいちゃんみたいな彼ではなくスター・ウォーズのような世界観。
これはいいなと思ったのだけれど。
だけども♪ だっけど♪
世間の求めた RICK SPRINGFIELD はこうじゃなかった。
汗臭くて、だけどちょっとかっこいい隣のお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんが都会を知ってあこがれて、その方向性に走り…。
ファンは戸惑いはじめる。
次作で明らかになるが、ヒットチャートをにぎわし、いろんな音楽と対峙して彼がようやく見つけた道-TAO-は、彼をそこまで持ち上げてくれた彼のオーディエンスとの間に大きな壁を作ることになってしまうのであった。
Rick Springfield - Celebrate Youth
一言いわせてもらえるなら、辿り着いた場所の時代がアップデートがされてない感じがする。
この曲を初めて聞いた感想は、いいメロディだけどなんだか音の作りが古くさいなというものだった。
憧れを最新の時間にリメイクしてリバイバルさせるのではなく、まるで数年前のロンドンに彼自身がタイムスリップしてしまったような一曲だった。
そして戸惑っていたファンはその時間旅行の同行者ではなく、見送りのプラットホームに立ち尽くす人並みであった。
Olympia/SERGIO MENDES~トーキョー2020私たちのオリンピック
SERGIO MENDES といえばもちろん知らない人がいないのは Mas que nada ということになるだろう。
Sergio Mendes & Brasil 66 - Mas que nada (introduced by Eartha Kitt / Something Special 1967)
しかし東京オリンピックイヤーを迎えた今年、思い出すのはこの曲だ。
Sergio Mendes - Olympia (1984)
壮大なスケールの曲、PVを用意した Olympia は1984年、ロスサンゼルス・オリンピックのテーマ曲として誕生した。
このPVには
・今まさに戦う選手
・オリンピック黎明期のギリシアの戦士たち
・いつかオリンピックにたどり着くかもしれないダウンウンの少年
のドラマが盛り込まれている。
とはいえ明確なストーリーがあるわけではなく、すべてがイメージフィルムのような作りで、それを見た私たちが感じるものが絵になる仕掛けである。
暗がり、聖火、曙、そして射す陽の光。
オリンピックがもたらす私たちへの夢や希望。
ドラマティックな音楽に支えられた、美しいフィルムは時を経ても色あせない。
それがオリンピックの魅力なのだろう。
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Happy Xmas (War Is Over)/JOHN AND YOKO, THE PLASTIC ONO BAND WITH THE HARLEM COMMUNITY CHOIR~世界は小さい。悩めるあなたにクリスマスの悦びを
The Beatles - Twist & Shout - Performed Live On The Ed Sullivan Show 2/23/64
Beatlesのパンキッシュな側面は、間違いなくJohnの感性によるものだと思う。
逆にロマンティックな部分は、Paulのものだ。
PAUL Mc CARTNEY ( No more lonely Nights 1984 ) HD
John Lennon - Nobody Told Me [Remastered] [HQ]
ソロになってからの曲を聴くと、そのあたりはより鮮明になるのではないか。
パンクといってもボーカルスタイル、音そのもの、そして思想や信条など、それを構成するものは多様だ。
モヒカン、鋲のついたリストバンド、安全ピン、ガーゼシャツ。
スリーコード、シャウト、アナーキズム、左翼思想。
THE CLASH - "KNOW YOUR RIGHTS"
10. Discharge, Why? - Stoke On Trent '83
その中でもひとつ、信念的な部分にスポットライトを当てると、音楽で世界を変えようとしたJohnの思想をパンクと呼ぶことは許されると信じている。
世界はひとつだ。
世界は平和のために。
戦争は終わった。
世界は広く
あなたの世界は小さい
その島の外にはあなたの知らない広い世界と新しい文化が息づいている
一歩踏み出してみよう
僕は知っている
あなたの夢見た世界が現実の世界だということを
幸せなクリスマスを。
そして、世界に争いのない新年を。
2017年、ありがとうございました。
John Lennon / Collector's Edition (Tin Can) (輸入盤CD)(ジョン・レノン)
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Do They Know It's Christmas?/BAND AID~(3)メリークリスマス・フォーエバー
それと比較して、後発のアメリカにはなんだかショウビズの臭いを感じてしまったのは仕方ないところだろう。
弁護するなら、効果も何もわからないままスタートしたイギリスと違い、バンドエイドの成功を見たから始まったプロジェクトなわけだし、集まってくるメンバーにもハレの舞台だという意識がそもそもあったから、という言い訳は通さざるを得ない。
Live Aid Finale 1985 - Do They Know Its Christmas
たださらに半年後のライヴエイドにしても、フィナーレを比較すると、みんなで自然にマイクに集まって、自分の声が拾われているとかいないとか関係なく歌い、時には隣のアーティストにマイクを譲ったりしている姿が映されたイギリス。
それに対して、なんだか台本通りに「ここ盛り上げて!」「ここそっちが仕切って!」みたいにやろうとしてるのに、俺が俺が私が私がで収拾がつかなくなっていく上に、終わってみればものすごい勢いの黒人のおばちゃんしか記憶に残らなかったアメリカという感じだった。
いや、パティ・ラベルはたしかにすごいシンガーですけど。
ただなんか空気の読めない大阪のオバチャンが黒人になってアメリカに登場したみたいな印象ではあった。
ともあれ、バンドエイドは美しい。
Band Aid - Do They Know its Christmas - The Making of - 1984 Video
そしてそもそもこのチャリティの流れの発端だったからということもあるだろう。
この奇跡のグループだけが、伝説となりうるのではなかろうか。
それにしてもポール・ウエラーって男前だな。
生真面目すぎて、いかにもなポップスターの中に入ると所在なさげにしてる感じはするけど。
Feed the world!
飢えることのない世界を!
Do They Know It's Christmas?/BAND AID~(1)クリスマスを世界に
Do They Know It's Christmas?/BAND AID~(2)普段着のクリスマス
【中古】その他CD バンド・エイド/ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス
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ライヴ・エイド★初回生産限定スペシャル・プライス★ [DVD]
- アーティスト: USA for AFRICA,スティーヴ・スティーヴンス,ナイル・ロジャース,マドンナ
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