THIS IS VIDEO CLASH "RETURNS"--80年代洋楽PVの記録--

PVをメインに取り上げた80年代洋楽の記録です。2000年頃のアーカイヴをtumblrに移植したものをさらにこちらへ。新作も加えていきます。

I.O.U./Freeez~マシンメイド・ミュージック・ウィズ・マン・マシーン

 


Freeez - IOU

このクリップ全編を彩る、今となっては古びたテクノ系ダンス。

それがすべての魅力だろう。

 

そして、その古さはブレイクダンスのヒットスタイルのウェイヴだけでなく、当時はストリートに持ち出された巨大なラジカセにも見られる。

 

ヴォーカルのハイトーンな音(それは声と呼ぶより、音と呼ぶのがふさわしい)と、作られた肌触りのメロディと音質。

 

マシンメイドな曲にあわせて、人がまるでマシンのように踊る映像が美しい。

 

 

 

GONNA GET YOU (DELUXE EXPANDED EDITION)

GONNA GET YOU (DELUXE EXPANDED EDITION)

 

 

 

 

So Tired/HAIRCUT100~素直な表現の功罪

バンドのフロントマンが脱退するということは、一大事である。リマールが抜けたカジャ・グー・グーは、よりテクニカルな方向にレベルアップしたが、「トゥー・シャイ」を愛したファン層はそれについていくことが出来なかった。

 

ヘアカット100が失ったのは、ニック・ヘイワードだった。

 

ニックなき後のヘアカット100を見るのは痛々しい。
爽やかトラッド系おぼっちゃま軍団だと思っていたが、ニック一人抜けただけで、異様におっさん臭い集団になってしまっている。


ヴォーカルは、「仕方ないから俺が歌うか……」みたいな居心地の悪いたたずまいで、再出発をはかるはずの決意の一曲のタイトルは「ソー・タイアード」。

 

 


Haircut One Hundred - So Tired ( Silver 7inc Disc )


仕事に疲れきった、中年のおっさんのようなモチベーションの低さである。

 

しかし、しかしだ。
このクリップは傑作である。


列車で旅をしながら、彼女との戻らぬ日々を思い浮かべるといった陳腐な内容でありながら、セピア調の映像とけだるいヴォーカルが見事に「ソー・タイアード」を表現している。


列車モノクリップとしては、ブロンスキ・ビートの「スモールタウンポーイ」と並ぶ完成度の高さを感じる。

 

このクリップの中に漂うけだるさ、疲れ、すべてがメンバーにとって、その時の偽らざる心情だったに違いない。スターの座に昇り詰めて、忙しい日常をこなしつづけているところにフロントマンの脱退。


「僕はもう疲れたよ……」そんな素直な気持ちがクリップになったのだ。

 

しかし、イアン・カーティスを失ったジョイ・ディヴィジョンが、「ブルー・マンデイ」を歌って、新しいスターの座を掴んだのとは違い、ヘアカット100に再びスポットライトがあたることはなかった。


「ブルー・マンデイ」に歌われた哀悼の思いは聴衆を駆り立てたが、「ソー・タイアード」で歌われた疲労感は聴衆までをもけだるい空気で包み込んでしまったのかもしれない。

 

 

 

So Tired - Haircut One Hundred 7

So Tired - Haircut One Hundred 7" 45

 

 

 

(Feels Like) Heaven/FICTION FACTRY~ストレートでチープな天国

タイトルの「ヘヴン」からあまりに簡単に連想できる天使。

天使のような少女をモチーフに、教会で撮影した安易でチープ、しかしながら曲の雰囲気を見事にビジュアルに変えた一本。

 


Fiction Factory - (Feels Like) Heaven

 

ところどころ、スイングするような気分になるカメラワークがあるが、それがなんとも夢幻の世界を表現している気がする。

 

音楽的にはこれまた見事にひねりのないポップスと呼ぶにふさわしい仕上がりで、今でいうなら「癒し系」の一曲だろう。

 

ただ、結局この一曲で終わってしまったのが残念。


アルバムも結構考えられていて奥深さを感じたけれど、世間はこのポップさがほしかっただけなのかもしれない。

 


 

 

Lies/THOMPSON TWINS~ドグラ・マグラな手錠

シュール、不条理、吹き荒れるナンセンスの嵐。

 


Thompson Twins - Lies

 

画面下でリズムをとるように動く三人の足の視界に、メンバーの演じる不思議な人物が現れては消え、消えては現れする。

この足は誰なのか。なぜ三人並んで横たわっているのか。

 

エンディングにおける第三者である看護師の登場で、すべては熱病患者もしくは精神に何かの異常をきたした患者の見た幻覚なのではないかと想起させて、PVは終わる。

バンド独特のオリエンタルな曲をうまく見せてくれるPVだ。

 

 

Quick Step & Side Kick

Quick Step & Side Kick

 

 

 

まるでドグラ・マグラの世界に音を付けたような終わり方ではないか。

 


 

 


 

 

それにしてもメンバー構成は個性が際立っている。

そして個々のキャラもたちまくっているバンドだった。

中ではイケメンで一番普通に街を歩けそうなファッションのTOMだけど、このPVの衣装はかなり謎。

あの手錠はなんなんだろう。

そこがこのPVの最大の謎であり、堂々巡りの目くらましなのだ。

 


 

 

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ティアーズ・フォー・フィアーズ TEARS FOR FEARS

恐れのために流す涙。繊細で、ガラスのような心の中に秘めた涙は、いつ流れ出すのだろう。
そんな、ギリギリのところにティアーズ・フォー・フィアーズがいた。

 


Mad World by Tears For Fears Original HQ 1983


ファーストアルバム「ザ・ハーティング」からシングルカットされた「マッド・ワールド(邦題:狂気の世界)」、「チェンジ」、「ペイル・シェルター」、そのいずれも、壊れそうなくらいに透き通ったヴォーカルの繰り広げる世界が、聴くものの心を魅了した。

 


Tears For Fears - Change


その音は、傷つきやすい心に共鳴するような青い魅力を放っていた。

 


Tears for Fears - Pale Shelter

 

しかし、その方向性は大きく変貌した。
セカンドアルバム「ソングス・フロム・ビッグ・チェアー」から流れる曲は、メロディよりもむしろリズムを重視したようなヘビーで、下腹部に力強く訴える楽曲だったのだ。

日本でもCMソングとしてヒットした「シャウト」。

 


Tears For Fears - Shout


ファーストの繊細な世界を構築したカートの、透明感溢れるヴォーカルを引き継いでいるのに、繊細さのかけらもなく重厚な「エブリバディ・ウォンツ・トゥ・ルール・ザ・ワールド」。

 


Tears For Fears - Everybody Wants To Rule The World


そして、メロディのすべてを取り払ったかのように心臓を叩くようなビートだけが響く、「マザーズトーク」。

 


TEARS FOR FEARS Mothers Talk Version 1 (ORIGINAL) HQ


この曲たちを聴いたとき彼らはもう、恐れるものも、そのために流す涙もなくしたのだと思った。
ティアーズ・フォー・フィアーズは終わった……そう思った。

 

しかし、ここからが、彼らの世界へのスタートだった。


ティアーズ・フォー・フィアーズは、自らの心の痛みを取り払ったそのときに、涙を捨てたそのときに、世界へのチケットを手にしたのだ。
結局、置いていかれたのは、自らの青春時代の心の痛みを忘れることのできない、青く育ちそこねた発育不良の聴衆だけだったのだ。

 


 

 


 

 

 

エービーシー ABC

それにしてもこのグループ名、それまでにどうして同名の先行グループがいなかったのかというくらいに簡潔で立派だ。
舌をかみそうなオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークとか、クリップが放映された時、曲名とグループ名が入れ替わっていたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、本国で思いっきり「キャヴァ・キャヴァ」と呼ばれてたサヴァ・サヴァなんかと比べて、キャッチーなことこのうえない。


だが……待てよ。


ABC……日本語に直すとしたら「あいうえお」? 「いろは」? なんかあんまりカッコよくないな…………。

 

というわけでABC。


この名前を聞くだけでは、あんまりシリアスな印象ではない。
はてさて、その実態はどうだったのか。

ズバリ…………イロモノ。

 

「ルック・オブ・ラヴ」のクリップを見ても、デビュー当時の全身金ラメスーツを見ても、どうにもこうにも企画モノっぽい匂いがプンプン漂ってくる。
マーティン・フライの巨大な顔面は一生懸命、シリアスなベクトルに表情を歪ませて、毒の矢を僕に放てよと歌いかけるが、そのシリアスさは微妙に空回りしていた。

 


ABC - The Look Of Love

 

このグループのイロモノ的なイメージを決定付けたのは、皮肉にもシリアス一辺倒で押し通した、「マントラップ」という、ライヴシーン満載のフィルムだろう。

 


ABC - "Mantrap" Pt 1


素晴らしいライヴシーンを満載しながら、ベタなサスペンスドラマ仕立てにしてしまったため、演技力不足のメンバーが真面目に演れば演るほど、笑いがこみ上げたものだ。
中でも、暴漢に襲われたマーティンを心配してかわるがわる声をかける、他のメンバーのイタイことったらありゃしない。


楽曲は素晴らしいし、ステージも魅力的。なのに、曲の途中で、ヘンな薬入りの水を飲んだマーティンが意識を失うシーンがあったりと、実にベタなドラマがイロモノっぽい。


普通にドキュメンタリータッチで全編通せば、少なくともトーキング・ヘッズの腰ぐらいには手が届いたかもしれないのに。
結局、印象に残ったのは「金ラメスーツ」「大根芝居」そして、「マーティンのおっきな顔」くらいのものだった。
「ポイズン・アロウ」の別アレンジ、「テーマ・フロム・マン・トラップ」なんて名曲だったのに。

 


"theme from mantrap" (poison arrow) abc

 

しかし、「イロモノABC」は明らかにウケていた。
まあ、イメージ的な部分は別としたら楽曲はしっかりとしたものだったし、クリップも面白かったし、この人気は妥当なものだっただろう。

 

ところが、マーティン・フライはやってしまう。
セカンドアルバム「ビューティ・スタッブ」で、そのイロモノカラーを塗り替えようとしたのだ。
眉間にしわを寄せて歌っていた彼には、まだ二枚目看板へのこだわりがあったのだろう。


イロモノチックなバンドが演る、ちょっとチープなカッコイイ音楽、そんな彼らのウリであった部分を「時事問題」に持っていってしまった。
当然、ファンは戸惑う。


彼らは、自らの演る曲のタイトルさながら、「S.O.S.」を発信するはめになり、発信むなしく、クリップの中の船と同じく沈没の道をたどることとなった。

 


ABC - S.O.S.

 

しかし、マーティンは再浮上した。サードアルバム「ハウ・トゥ・ビー・ア・ジリオネイア」を引っさげて。
ここで彼が展開したのは、デビュー時に評価されたイロモノの部分を極めたダンスチューンだったのだ。
アルバムのタイトルもタイトルなら、シングルもシングル。


「ビー・ニア・ミー」で様子をうかがった後、送り出したのは「ハウ・トゥ・ビー・ア・ミリオネイア」なんてことになっていた。

 


ABC - Be Near Me

 


ABC - How To Be A Millionaire


しかもご丁寧に、メンバーには楽器が演奏できるのかどうかすらアヤシイ、謎の小男と、タイムボカンシリーズの悪役ヒロインみたいなお姉ちゃんまで引き連れて。

 

そう、マーティンの選んだ道は、望まれない二枚目を貫き通すことでもなく、ちょっとだけおちゃらけることでもなく、コミックバンドではないイロモノという、新しいジャンルへの邁進だったのだ。


それにしても、あのメンバーとあの歌詞で、コミックバンドではなく、ダンスポップグループとして復活した、マーティン・フライの作戦には驚嘆せざるを得ない。
イロモノはどこまでも極めれば、それはホンモノとして受け入れられるくらいに立派なシロモノだと、彼は知っていたのに違いない。

 

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ビッグ・カントリー BIG COUNTRY

「世界にロックバンドは4つしかない。U2とシンプルマインズ、エコー・アンド・ザ・バニーメン、そして俺たちさ」

 

スチュアート・アダムソンの言葉通り、ビッグ・カントリーは骨のあるロックを聴かせてくれた。

 


Big Country - In A Big Country

 

デビューアルバムのトップに収録された「インナ・ビッグ・カントリー」のイントロは、シングルバージョンの骨格の部分をさらにパワーアップしたアレンジで、イントロから激しいドラムとスチュアートの「シャッ!」という掛け声が炸裂し、プレーヤーに針を落とすたびにゾクゾクとさせられたものだった。

 

しかし、彼らの全世界に発信したはずのチャートアプローチのリアクションは、デビュー曲の「インナ・ビッグ・カントリー」を頂点に、本国のみに留まってしまう。
どの曲を聴いても、アメリカでウケる要素は満載に聴こえるのだが、何がいけなかったのだろう。
そこには、デビュー時の完成度の高さが影響していたのかもしれない。

 

当時も感じていたことだが、彼らのロックは、「インナ・ビッグ・カントリー」で完成されていた。
アルバムごとに変貌を遂げ、80年代後半になってついにメジャーチャートに向けて、完成度の高い楽曲をリリースしたU2と違い、ビッグ・カントリーは、デビューから間もない時点で、自分たちのスタイルもポリシーも技術も全てにおいて完成度が高すぎたのだ。
結果、彼らの曲はどれも「インナ・ビッグ・カントリー」の焼き直しのような印象を与えてしまった。

 


Big Country - Fields of Fire

 

デビュー間もない時期において、他のバンドの誰にも真似できない個性である、バグパイプ風のギターに、スチュアートの叫び声という、インパクトの強い武器を持っていた彼らだったが、逆にその個性が首を締めてしまったのだ。

 

彼らの完成されたスタイルには、もはや肉付けを施す余地はなく、「インナ・ビッグ・カントリー」のパーツを目立たないように省略していくしか進むべき道がなかったのである。

 

それ以降、「チャンス」「イースト・オブ・エデン」と、新しいジャンルを切り拓こうと苦心はしてみたものの、思うようなリアクションは得られず、結局「ホエア・ザ・ローズ・イズ・ソーン(邦題:バラの墓標)」、「ルック・アウェイ」のようなデビュー曲の縮小再生産しか、道は残されていなかった。
それらの曲は彼らを支持する、世界には届かない閉鎖された世界では、熱狂的に受け入れられたのである。

 


Big Country - 'Chance' (Rare unreleased mix) from Hold Tight, 1983


Big Country - East Of Eden

 

たしかにシンセ全盛の当時、ロックバンドは世界に4つしかなかったかもしれない。
しかし、その中で世界を手中に入れたのは、変革を遂げたU2であり、シンプル・マインズであったし、どこまでも内向的に自我を追及したエコー・アンド・ザ・バニーメンは成長の過程でカルトな人気を得た。
しかし、ビッグ・カントリーは元々持っていた完成度の高さゆえ、変革や成長という過程を歩めないままに終わってしまったのだ。

 

あの頃のビデオテープを再生すると、MTVでは2通りの「インナ・ビッグ・カントリー」を見ることができる。
ドラマ仕立てのクリップともうひとつ、ライブのビデオである。

 


Big Country - In A Big Country - Princes Trust Live - 1986. HD

 

そして、そのライブビデオの中で繰り広げられる演奏とパフォーマンスの完成度は、あまりにも高い。
しかし、そのビデオを見ると、彼らが世界に受け入れられることがなかったもうひとつの理由も見えてくる。


アメリカンチャートを席巻したオシャレ系イギリスバンドたちとはあまりにもかけ離れた、「偉大な祖国」のトレードマークであるタータンチェックのシャツ。

祖国への思いにこだわった彼らは、ビジュアル面でも「ど田舎」出身の泥臭さを捨てられず、変革を遂げることは出来なかった。
今となっては、もう二度と生で聴くことの出来ない、バグパイプ風のギターのメロディ。

 


Big Country - Wonderland


しかし、その音は脳の中ではなく、耳の奥に記憶として残り、いつでも心の中で再生できる。
そのメロディは、祖国にあるはずのスチュアート自身の墓標に、バラとともに供えるために書かれたメロディだったのかもしれない。

 


 

 

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