Hands Tied/SCANDAL~田舎のお姉ちゃん、都会の女になる!
パティ・スマイスは田舎のお姉ちゃんだった。
Scandal, Patty Smyth - Goodbye To You
そんな彼女の心と自意識を都会に連れ出したのは、たまたま点けたMTVから流れる、クリップの中のシンディ・ローパーの姿だった。
Cyndi Lauper - Girls Just Want To Have Fun (Official Video)
「ザ・ウォリアー」で街に出た彼女は、「ビート・オブ・ア・ハート」で夜の町を体験。
Scandal, Patty Smyth - The Warrior
Scandal Beat Of A Heart (1984)
そして、一通りの遊びを終えたパティは、「ハンズ・タイド」で大人の女になり、都会と一体化した。
Scandal/Patty Smyth - Hands Tied (original) - [STEREO]
余計なアクションや派手なメイク、衣装をすべて排除したこのクリップの静かな美しさは、落ち着いた曲調とマッチして、パティの素材としての魅力を十二分に輝かせている。
中でもこのクリップで秀逸なのは、ギターソロのあるリードギタリストは別として、残りのメンバーを腰掛けたまま演奏させ、クリップ内の動きをパティに集中したことだ。
そうすることで、パティに派手で滑稽なアクションを強要することなく、彼女の「動」の魅力を見せる事に成功したのである。
窓辺に腰掛けるパティが唇を動かすだけで彼女の魅力が溢れ出すくらい、このクリップは洗練されている。
スキャンダルがパティ・スマイスをフィーチャンリングして、彼女のルックスをも武器にしようとした時、他のメンバーは、パティ・スマイスがソロになってしまうという危惧は抱かなかったのだろうか。
もしかしたら、このクリップが出来上がって、被写体としてのパティの完成度を見た時、何も考えずただ幸せにロケンロールしてたメンバーは初めてその危惧を抱いたのかもしれない。
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Poison Arrow/ABC~本人だけが気付いていなかったイロモノの資質
ポイズン・アロウは名曲だ。
この曲は間奏の中途半端なセリフを除けば、ABC中で、もっともシリアスでドラマティックな名曲である。
そのドラマテイックさは、同じメロディをバラードにアレンジした、「テーマ・オブ・マントラップ」を聴けばわかる。
しかし、そのドラマティックな一曲も、クリップを見るとイロモノ以外のナニモノでもない。
フィルム「マン・トラップ」と重なるシーンが多いこのクリップは、「マン・トラップ」では見られない、完全演奏シーンが披露されるにもかかわらず、その合い間に差し挟まれるシーンがことごとく滑稽なのだ。
二番のAメロをうたう、マーティンの衣装も滑稽なら、間奏のセリフのシーンで小人にされて逃げ惑うマーティンも滑稽。
本人はシリアスにやっているこの頃、すでに彼には自分だけが知らない、イロモノの資質が咲き誇っていたのだ。
オペラグラスを目に当てて、ステージを見やる観客に扮した二役のマーティンを見よ。
あまりの顔のデカさに、オペラグラスがミニチュアに見えるではないか。
ルック・オブ・ラヴ [ ABC ]
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Shout/TEARS FOR FEARS~ガラスの少年たちの叫び声
叫ベ。叫べ。すべて吐き出させてあげる。
そんなものなくたって僕にはできる。
おいで。
君に言ってるんだ。おいで
この言葉は誰に話しかけたものだろう。
それは自ら、そして彼らの「チェンジ」「ペイル・シェルター」を愛したファンへの語りかけだったのではないだろうか。
このクリップの大きな意味は、彼らがはじめて全米ナンバーワンを獲得しただけではなく、それまでのイメージを覆したこともある。
繊細で内向的な思春期……というイメージから、力強く成長した男性の魅力を打ち出し、外向的な力強さと、チャートリアクションへの夢も覗かせたことにある。
ティアーズの繊細なパートを一任してきたカートではなく、ローランドをヴォーカルにすえたことも、この曲から受ける、彼らの「脱皮」を感じさせる。
岸壁で力強く「シャウト」するローランドの姿には、それまでの内向的なガラス細工ではなく、新しい世界に力強く踏み出す彼らの姿を感じる。
SACD/ティアーズ・フォー・フィアーズ/シャウト (SHM-SACD) (解説歌詞対訳付)/UIGY-15010
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I.O.U./Freeez~マシンメイド・ミュージック・ウィズ・マン・マシーン
このクリップ全編を彩る、今となっては古びたテクノ系ダンス。
それがすべての魅力だろう。
そして、その古さはブレイクダンスのヒットスタイルのウェイヴだけでなく、当時はストリートに持ち出された巨大なラジカセにも見られる。
ヴォーカルのハイトーンな音(それは声と呼ぶより、音と呼ぶのがふさわしい)と、作られた肌触りのメロディと音質。
マシンメイドな曲にあわせて、人がまるでマシンのように踊る映像が美しい。
GONNA GET YOU (DELUXE EXPANDED EDITION)
- アーティスト: FREEEZ
- 出版社/メーカー: OCTAVE
- 発売日: 2050/12/31
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So Tired/HAIRCUT100~素直な表現の功罪
バンドのフロントマンが脱退するということは、一大事である。リマールが抜けたカジャ・グー・グーは、よりテクニカルな方向にレベルアップしたが、「トゥー・シャイ」を愛したファン層はそれについていくことが出来なかった。
ヘアカット100が失ったのは、ニック・ヘイワードだった。
ニックなき後のヘアカット100を見るのは痛々しい。
爽やかトラッド系おぼっちゃま軍団だと思っていたが、ニック一人抜けただけで、異様におっさん臭い集団になってしまっている。
ヴォーカルは、「仕方ないから俺が歌うか……」みたいな居心地の悪いたたずまいで、再出発をはかるはずの決意の一曲のタイトルは「ソー・タイアード」。
Haircut One Hundred - So Tired ( Silver 7inc Disc )
仕事に疲れきった、中年のおっさんのようなモチベーションの低さである。
しかし、しかしだ。
このクリップは傑作である。
列車で旅をしながら、彼女との戻らぬ日々を思い浮かべるといった陳腐な内容でありながら、セピア調の映像とけだるいヴォーカルが見事に「ソー・タイアード」を表現している。
列車モノクリップとしては、ブロンスキ・ビートの「スモールタウンポーイ」と並ぶ完成度の高さを感じる。
このクリップの中に漂うけだるさ、疲れ、すべてがメンバーにとって、その時の偽らざる心情だったに違いない。スターの座に昇り詰めて、忙しい日常をこなしつづけているところにフロントマンの脱退。
「僕はもう疲れたよ……」そんな素直な気持ちがクリップになったのだ。
しかし、イアン・カーティスを失ったジョイ・ディヴィジョンが、「ブルー・マンデイ」を歌って、新しいスターの座を掴んだのとは違い、ヘアカット100に再びスポットライトがあたることはなかった。
「ブルー・マンデイ」に歌われた哀悼の思いは聴衆を駆り立てたが、「ソー・タイアード」で歌われた疲労感は聴衆までをもけだるい空気で包み込んでしまったのかもしれない。
(Feels Like) Heaven/FICTION FACTRY~ストレートでチープな天国
タイトルの「ヘヴン」からあまりに簡単に連想できる天使。
天使のような少女をモチーフに、教会で撮影した安易でチープ、しかしながら曲の雰囲気を見事にビジュアルに変えた一本。
Fiction Factory - (Feels Like) Heaven
ところどころ、スイングするような気分になるカメラワークがあるが、それがなんとも夢幻の世界を表現している気がする。
音楽的にはこれまた見事にひねりのないポップスと呼ぶにふさわしい仕上がりで、今でいうなら「癒し系」の一曲だろう。
ただ、結局この一曲で終わってしまったのが残念。
アルバムも結構考えられていて奥深さを感じたけれど、世間はこのポップさがほしかっただけなのかもしれない。
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Lies/THOMPSON TWINS~ドグラ・マグラな手錠
シュール、不条理、吹き荒れるナンセンスの嵐。
画面下でリズムをとるように動く三人の足の視界に、メンバーの演じる不思議な人物が現れては消え、消えては現れする。
この足は誰なのか。なぜ三人並んで横たわっているのか。
エンディングにおける第三者である看護師の登場で、すべては熱病患者もしくは精神に何かの異常をきたした患者の見た幻覚なのではないかと想起させて、PVは終わる。
バンド独特のオリエンタルな曲をうまく見せてくれるPVだ。
まるでドグラ・マグラの世界に音を付けたような終わり方ではないか。
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それにしてもメンバー構成は個性が際立っている。
そして個々のキャラもたちまくっているバンドだった。
中ではイケメンで一番普通に街を歩けそうなファッションのTOMだけど、このPVの衣装はかなり謎。
あの手錠はなんなんだろう。
そこがこのPVの最大の謎であり、堂々巡りの目くらましなのだ。
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