THIS IS VIDEO CLASH "RETURNS"--80年代洋楽PVの記録--

PVをメインに取り上げた80年代洋楽の記録です。2000年頃のアーカイヴをtumblrに移植したものをさらにこちらへ。新作も加えていきます。

エービーシー ABC

それにしてもこのグループ名、それまでにどうして同名の先行グループがいなかったのかというくらいに簡潔で立派だ。
舌をかみそうなオーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークとか、クリップが放映された時、曲名とグループ名が入れ替わっていたフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、本国で思いっきり「キャヴァ・キャヴァ」と呼ばれてたサヴァ・サヴァなんかと比べて、キャッチーなことこのうえない。


だが……待てよ。


ABC……日本語に直すとしたら「あいうえお」? 「いろは」? なんかあんまりカッコよくないな…………。

 

というわけでABC。


この名前を聞くだけでは、あんまりシリアスな印象ではない。
はてさて、その実態はどうだったのか。

ズバリ…………イロモノ。

 

「ルック・オブ・ラヴ」のクリップを見ても、デビュー当時の全身金ラメスーツを見ても、どうにもこうにも企画モノっぽい匂いがプンプン漂ってくる。
マーティン・フライの巨大な顔面は一生懸命、シリアスなベクトルに表情を歪ませて、毒の矢を僕に放てよと歌いかけるが、そのシリアスさは微妙に空回りしていた。

 


ABC - The Look Of Love

 

このグループのイロモノ的なイメージを決定付けたのは、皮肉にもシリアス一辺倒で押し通した、「マントラップ」という、ライヴシーン満載のフィルムだろう。

 


ABC - "Mantrap" Pt 1


素晴らしいライヴシーンを満載しながら、ベタなサスペンスドラマ仕立てにしてしまったため、演技力不足のメンバーが真面目に演れば演るほど、笑いがこみ上げたものだ。
中でも、暴漢に襲われたマーティンを心配してかわるがわる声をかける、他のメンバーのイタイことったらありゃしない。


楽曲は素晴らしいし、ステージも魅力的。なのに、曲の途中で、ヘンな薬入りの水を飲んだマーティンが意識を失うシーンがあったりと、実にベタなドラマがイロモノっぽい。


普通にドキュメンタリータッチで全編通せば、少なくともトーキング・ヘッズの腰ぐらいには手が届いたかもしれないのに。
結局、印象に残ったのは「金ラメスーツ」「大根芝居」そして、「マーティンのおっきな顔」くらいのものだった。
「ポイズン・アロウ」の別アレンジ、「テーマ・フロム・マン・トラップ」なんて名曲だったのに。

 


"theme from mantrap" (poison arrow) abc

 

しかし、「イロモノABC」は明らかにウケていた。
まあ、イメージ的な部分は別としたら楽曲はしっかりとしたものだったし、クリップも面白かったし、この人気は妥当なものだっただろう。

 

ところが、マーティン・フライはやってしまう。
セカンドアルバム「ビューティ・スタッブ」で、そのイロモノカラーを塗り替えようとしたのだ。
眉間にしわを寄せて歌っていた彼には、まだ二枚目看板へのこだわりがあったのだろう。


イロモノチックなバンドが演る、ちょっとチープなカッコイイ音楽、そんな彼らのウリであった部分を「時事問題」に持っていってしまった。
当然、ファンは戸惑う。


彼らは、自らの演る曲のタイトルさながら、「S.O.S.」を発信するはめになり、発信むなしく、クリップの中の船と同じく沈没の道をたどることとなった。

 


ABC - S.O.S.

 

しかし、マーティンは再浮上した。サードアルバム「ハウ・トゥ・ビー・ア・ジリオネイア」を引っさげて。
ここで彼が展開したのは、デビュー時に評価されたイロモノの部分を極めたダンスチューンだったのだ。
アルバムのタイトルもタイトルなら、シングルもシングル。


「ビー・ニア・ミー」で様子をうかがった後、送り出したのは「ハウ・トゥ・ビー・ア・ミリオネイア」なんてことになっていた。

 


ABC - Be Near Me

 


ABC - How To Be A Millionaire


しかもご丁寧に、メンバーには楽器が演奏できるのかどうかすらアヤシイ、謎の小男と、タイムボカンシリーズの悪役ヒロインみたいなお姉ちゃんまで引き連れて。

 

そう、マーティンの選んだ道は、望まれない二枚目を貫き通すことでもなく、ちょっとだけおちゃらけることでもなく、コミックバンドではないイロモノという、新しいジャンルへの邁進だったのだ。


それにしても、あのメンバーとあの歌詞で、コミックバンドではなく、ダンスポップグループとして復活した、マーティン・フライの作戦には驚嘆せざるを得ない。
イロモノはどこまでも極めれば、それはホンモノとして受け入れられるくらいに立派なシロモノだと、彼は知っていたのに違いない。

 

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