The Model/BIG BLACK~イキまくる外壁破壊ツール
1980年代に入って、クラフトワークをカッコイイと公言しにくくなってきた頃、少し間をおいてカバー曲というジャンルで、クラフトワークの遺産からふたつの星が輝いた。
Afrika Bambaataa & Soul Sonic Force - Planet Rock [Rockamerica] (1982)
ひとつは82年の Planet Rock。
これについてはまたいつか語る日もあるかもしれない。
Big Black (Seattle 1987) [05]. The Model
そしてもうひとつは87年のThe Model。
そう、あの悪名高き、BIG BLACKのこいつだ。
まあまかり間違ってもお上品とか、オシャレとかいえない、スティーヴ先生の一撃だし、そもそも踊るためのアレンジでもなんでもなく、他人に聴いてほしかったのかも怪しいようなアレンジで、ただとにかく吐き出すためのツールというか、とにかく「聴く」ためのものではない作品なのだ。
思うに、これは作品でも音楽でもなく、ただとにかく表現したい誰かが、ただ思い切り自分がイキまくるために表現するための自慰ツールだ。
そしてその自慰行為をみんなに見てもらうために、みんなの知ってる有名な素材を、自分のパブリックイメージからなるべく遠く離れたテリトリから無理やり持ってきて、好きなようにいじり倒すことで目立とうとした、そんな気がするのだ。
当時の日本のチャートで例えるなら、白塗りに全裸のアングラ舞踊の劇団(特定の実在の集団をさしているわけではなくあくまで例としての表現です)が、BGMにガラスの十代をかけながら、誰も見ていない深夜の公園で踊ってる、みたいな。
だがこの選曲は素晴らしいと思う。響くような重低音、鉄骨をぶつけあうようなビートに、感情を押し殺してロボットを演じようとあがいた、原曲のイメージが壊されていく瞬間。
そして、しかしそれでも美しすぎるメロディは全壊されることなく、狂ったように美しく残骸の背骨が残されていくのだ。
外壁を破壊された原曲の芯が目立つことで、かえって、その美的でたしかな骨組みが再認識できる。そんなアレンジだ。
ノイズにおしゃれという概念を持ち込んだジーザス&メリーチェインとは対極的に、本来のノイズの不快感と、それなのにやみつきになる奇妙なバランスは、とにかく本人が絶頂に達し続けることで生み出されたのではないだろうか。
[CD]BIG BLACK ビッグ・ブラック/SONGS ABOUT FUCKING (LTD)【輸入盤】
|