THIS IS VIDEO CLASH "RETURNS"--80年代洋楽PVの記録--

PVをメインに取り上げた80年代洋楽の記録です。2000年頃のアーカイヴをtumblrに移植したものをさらにこちらへ。新作も加えていきます。

ビッグ・カントリー BIG COUNTRY

「世界にロックバンドは4つしかない。U2とシンプルマインズ、エコー・アンド・ザ・バニーメン、そして俺たちさ」

 

スチュアート・アダムソンの言葉通り、ビッグ・カントリーは骨のあるロックを聴かせてくれた。

 


Big Country - In A Big Country

 

デビューアルバムのトップに収録された「インナ・ビッグ・カントリー」のイントロは、シングルバージョンの骨格の部分をさらにパワーアップしたアレンジで、イントロから激しいドラムとスチュアートの「シャッ!」という掛け声が炸裂し、プレーヤーに針を落とすたびにゾクゾクとさせられたものだった。

 

しかし、彼らの全世界に発信したはずのチャートアプローチのリアクションは、デビュー曲の「インナ・ビッグ・カントリー」を頂点に、本国のみに留まってしまう。
どの曲を聴いても、アメリカでウケる要素は満載に聴こえるのだが、何がいけなかったのだろう。
そこには、デビュー時の完成度の高さが影響していたのかもしれない。

 

当時も感じていたことだが、彼らのロックは、「インナ・ビッグ・カントリー」で完成されていた。
アルバムごとに変貌を遂げ、80年代後半になってついにメジャーチャートに向けて、完成度の高い楽曲をリリースしたU2と違い、ビッグ・カントリーは、デビューから間もない時点で、自分たちのスタイルもポリシーも技術も全てにおいて完成度が高すぎたのだ。
結果、彼らの曲はどれも「インナ・ビッグ・カントリー」の焼き直しのような印象を与えてしまった。

 


Big Country - Fields of Fire

 

デビュー間もない時期において、他のバンドの誰にも真似できない個性である、バグパイプ風のギターに、スチュアートの叫び声という、インパクトの強い武器を持っていた彼らだったが、逆にその個性が首を締めてしまったのだ。

 

彼らの完成されたスタイルには、もはや肉付けを施す余地はなく、「インナ・ビッグ・カントリー」のパーツを目立たないように省略していくしか進むべき道がなかったのである。

 

それ以降、「チャンス」「イースト・オブ・エデン」と、新しいジャンルを切り拓こうと苦心はしてみたものの、思うようなリアクションは得られず、結局「ホエア・ザ・ローズ・イズ・ソーン(邦題:バラの墓標)」、「ルック・アウェイ」のようなデビュー曲の縮小再生産しか、道は残されていなかった。
それらの曲は彼らを支持する、世界には届かない閉鎖された世界では、熱狂的に受け入れられたのである。

 


Big Country - 'Chance' (Rare unreleased mix) from Hold Tight, 1983


Big Country - East Of Eden

 

たしかにシンセ全盛の当時、ロックバンドは世界に4つしかなかったかもしれない。
しかし、その中で世界を手中に入れたのは、変革を遂げたU2であり、シンプル・マインズであったし、どこまでも内向的に自我を追及したエコー・アンド・ザ・バニーメンは成長の過程でカルトな人気を得た。
しかし、ビッグ・カントリーは元々持っていた完成度の高さゆえ、変革や成長という過程を歩めないままに終わってしまったのだ。

 

あの頃のビデオテープを再生すると、MTVでは2通りの「インナ・ビッグ・カントリー」を見ることができる。
ドラマ仕立てのクリップともうひとつ、ライブのビデオである。

 


Big Country - In A Big Country - Princes Trust Live - 1986. HD

 

そして、そのライブビデオの中で繰り広げられる演奏とパフォーマンスの完成度は、あまりにも高い。
しかし、そのビデオを見ると、彼らが世界に受け入れられることがなかったもうひとつの理由も見えてくる。


アメリカンチャートを席巻したオシャレ系イギリスバンドたちとはあまりにもかけ離れた、「偉大な祖国」のトレードマークであるタータンチェックのシャツ。

祖国への思いにこだわった彼らは、ビジュアル面でも「ど田舎」出身の泥臭さを捨てられず、変革を遂げることは出来なかった。
今となっては、もう二度と生で聴くことの出来ない、バグパイプ風のギターのメロディ。

 


Big Country - Wonderland


しかし、その音は脳の中ではなく、耳の奥に記憶として残り、いつでも心の中で再生できる。
そのメロディは、祖国にあるはずのスチュアート自身の墓標に、バラとともに供えるために書かれたメロディだったのかもしれない。

 


 

 

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