SPANDAU BALLET スパンダー・バレエ
Spandau Ballet - To Cut A Long Story Short
デビュー当初大仰な中世貴族風衣装に身を包み、エキゾチックで浪漫的な時代を超えた独特の世界観を展開した彼らだったが曲調そのものはダンサブルなクラブミュージックとドラマティックなバラードが主軸で、別にそんなイメージ戦略をとることが必須だったわけではない。
では、なぜあんなスタイルを選んだのか。
あれは、かのスティーヴ・ストレンジのあやかしの魔法が紡ぎ出した、ニューロマンティックというカルチャーが生み出した賜物だった。
デビュー当時成人するかしないかのメンバーにとって、仲間と集ったクラブは楽しい場所だったことだろう。
そして彼らは音楽ができた。
ゲイリーが曲を書き、トニーがあのオペラチックなヴォーカルで表現し、そのとき彼らは夢中になったクラブの流行だった過剰なファッションに身を包んでステージに立った。
表面的にはそれだけのことだった。
しかし彼らにはあの選択肢を選んだ真の理由があった。
あのスノビズムに満ち満ちた衣装という決断の裏には、フロントマンのトニーのルックスがあったのではなかろうか。
たとえばバリバリのメイクでパペットになりきったスティーヴ・ストレンジや、唇を赤く塗り中世的な美少年を演じたニック・ローズ、ヒラヒラの衣装を着たアダム・アントたちのような中性的な線の細さはなかった。
Adam & The Ants - Kings of the Wild Frontier
70年代主要ロックのゴリゴリしたむさくるしさに男どもが群がったのとは一線を画した、女の子たちのワーキャーの先にあったのは、あのファッションであり、女子のような男たちだった。
比してトニーはモデル張りの二枚目だが、いわゆるガタイのいい英国紳士だった。
それを活かすためには、あの路線が最適だったのだ。
そういう意味では洗練されていたとはいえ、スパンダーはいわゆるアイドル的な印象はなく、ニューロマンティックとして括られたニューフェイスの中でも、衣装と相まって格調高いとでもいいたくなる一種異様な存在だった。
そのライバルとして比較された対象があの DURAN DURAN だったというのは、今となっては不思議でしようがないが、チャートアクション的にもタイミング的にも2トップ的に祭り上げられる空気ができていたのだろう。
Planet EarthとTo Cut A Long Story Skortを比べてみると、両社の違いは歴然だ。
ルックスという要素が影響して、デュランは音、衣装ともにヴィサージ寄りで、スパンダーは音に関してはABC、衣装に関してはジ・アンツ同様コンセプト重視の方向性になったのではないだろうか。
ただあの中世貴族趣味は、デュランの普段着よりちょっとオシャレなクラブウェアとは違って、あきらかにコスプレの域に足を踏み入れていた。
さすがにこれではイカン。
いつまでもこのままいくわけにはいかない。
メンバーにそんな思いもあっただろう。
デーモン小暮閣下が証明するように、本業の音楽に真の実力があるという条件付きで、何が何でも貫けばそれは定着するといえる。
しかし、それはあとになって証明されることであり、当時の音楽シーンは、ジャンルがひととおり出尽くした感のある現在と違い、プログレからパンク、テクノ、ニューロマンティックと次々とムーブメントが起き、さらにまだ新しいものが生まれくる余地があった。
貴族の夜会服はもちろんのこと、ニューロマンティックというムーヴメントそのものにもしがみつくことは危険だった。
一歩間違えれば、氏神一番になってしまう。
そして、スパンダーは夜会服を脱いだ。
Spandau Ballet - Chant No 1 (I Don't Need This Pressure On)
次に選んだのはファンクに近づいたダンスミュージック、そしてスーツ。
これは見事に響いた。
デビュー時の時空を遡ったように妖しいエキゾチックな色彩を剥がし、よりソリッドによりダンサブルにナイトクラブを舞台に繰り広げられた音。
そしてトニーが着替えを選択するのなら、これしかなかったといわんばかりの正統派スーツスタイル。
その路線はハマり、彼らはさらに高みに上っていく。
一世を風靡し、今もスタンダードとして残るバラード True が大ヒットしたころにはスーツ姿でのびのあるオペラチックなヴォーカルを紡ぎだすトニーは神々しくさえ見えた。
これこそ中世貴族のコスプレを脱して以降の、現代版スパンダーのひとつの完成形だった。
だが、歯車はくるい始める。
Spandau Ballet - Only When You Leave
次のアルバムから最初にカットされた Only When You Leave のトニーは、革ジャンの下に白いシャツを着て、その後ろ髪は無造作に跳ね回っていた。
それでもそのPVの中、メロドラマっぽいシーンのトニーは、これでもかというくらいバリバリに英国紳士らしいスーツ姿を見せてくれていた。
こちらのほうが彼らの真の姿だ。
そう信じたかった。
Spandau Ballet - Highly Strung
往々にして嫌な予感ほど当たるものだ。
Highly Strung で見せた彼らの姿は、スーツを着崩した、当時どこにでもいそうなヤングガイズの姿だった。
まあいうなれば一世風靡セピアみたいなもんだ。
曲はめちゃくちゃにかっこいいし、香港らしき舞台で、二枚目マーティン・ケンプが現地の女優と恋に落ちるストーリーも陳腐といえば陳腐だが、疾走感のある曲に合わせてよく仕上がっている。
しかしそこにはデビュー時の幻想的で浮世離れした、ほかの誰にもないあの路線から続く彼らならではの個性は消えていた。
今になって思えば、初期の個性を残しつつモデルチェンジしていった中で、曲とPVを両立した完成形は、Gold だった。
そこを通り過ぎてしまい、彼らは迷走し始めていたに違いない。
Only When You Leave のPVはどんなに素晴らしくても、あの初期スパンダーの個性だった、エキゾチックな歴史と英国伝統の正統派紳士のにおいを感じることはできなくなっていた。
恋した貴族が爵位を放棄して、民間女性と恋をする。
そんな歴史上のドラマのように、彼らはあの個性的なスノビズムを脱ぎ捨てたのだ。
そしてロマンティックな伯爵様は、その地位を放棄したことで、世間から忘れ去られていく。
──恋に生きた伯爵様は、たぶん今頃幸せに暮らしていることでしょう──
Spandau Ballet - I'll Fly For You
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