THIS IS VIDEO CLASH "RETURNS"--80年代洋楽PVの記録--

PVをメインに取り上げた80年代洋楽の記録です。2000年頃のアーカイヴをtumblrに移植したものをさらにこちらへ。新作も加えていきます。

フェイス・トゥ・フェイス FACE TO FACE

どうってことない連中が何の気なしに集まってバンドを始めた。
それは、バンドでなくてもよかったのかもしれない。


9人集まれば野球が出来るし、11人集まればサッカーも出来る。
だが集まったのは5人。
みんな、楽器が出来た。
そして、そのうち一人は可愛い女の子だった。

 

ギタリストのアンジェロを中心に結成されたフェイス・トゥ・フェイスの最大の魅力は、ヴォーカルのローリー・サージャントという被写体だった。


言い添えておくと、アンジェロを中心としたメンバーの演奏は確かだし、ローリーのヴォーカルも表情があるうえに、力強さもあり、巧い。けっして、フェイス・トゥ・フェイスは、ローリーのルックス頼みのアイドルグループではなかった。


しかし、ローリーは可愛かった。音楽産業を作る立場の人間にとっては、それが武器に見えたに違いない。
それが、このバンドを混沌とした道に招きいれてしまったのだ。

 

フェイス・トゥ・フェイスが不幸だったのは、ヒットシングルが本来の音楽とは少し違うものだったことだ。

 


Face To Face - 10 9 8 - Lip Sync Live TV

 


アーサー・ベイカーがプロデュースしたシングル「10-9-8(邦題:恋のカウントダウン)」は、色彩の魅力を存分に発揮したクリップの完成度の高さも手伝ってヒットしたが、そこに展開されたのは、「作る側」のローリーのルックスを意識した世界だった。
その思惑にあわせて「10-9-8」は、明らかに彼らの持つエッセンスとは異なる、当時の流行の「オシャレ」な色でアレンジされていた。

 


10-9-8 (12 inch mix) -- Face to Face

 

彼らの真骨頂は、それこそ、ギターを持ったアメリカの学生がカレッジで演っているような、ストレートでパワフルなロックだったように思う。
当然、一曲勝負でないアルバムはそのカラーが強く出る。


「10-9-8」で彼らに目を留めたファンにとって、同じアーサーの手による「アンダー・ザ・ガン」を除いて、あまりに毛色の違う曲の並んだアルバムは心を動かされるものではなかった。

 


Face To Face - Under The Gun (1984)

 

実は日本において「10-9-8」よりはるかに知られている、彼らの曲がある。
それは、映画「ストリート・オブ・ファイア」のサウンドトラックにメインテーマとして収録された「トゥナイト・イズ・ホワット・イット・ミーンズ・トゥ・ビー・ヤング(邦題:今夜は青春)」という曲だ。


彼らは、劇中に登場するバンド、アタッカーズ役でフィルムデビューしたのだ。
そう、全世界にそのハードかつ、パワフルなステージングとダイナミックなローリーのヴォーカルを披露できるチャンスを掴んだのである。

 

しかし、出来上がったフィルムにローリーの姿はなかった。


アンジェロたちを引き連れてダイナミックなステージングを見せたのは、口パクのダイアン・レインだった。ローリーの役どころは彼女の吹き替えだったのである。

 


Tonight Is What It Means to be Young - Streets of Fire

 


結局、メンバーは、ダイアン・レインのバックバンドとしてフィルムに記録された。
そして、サントラアルバムには、ファイア・インクという架空のバンド名が残された。
こうしてグループは、フェイス・トゥ・フェイスの武器になるはずだったローリーの被写体としての魅力を欠いたまま、世界のスクリーンにプロモーションをしかけてしまったのである。

 

映画のハイライトシーンで凄絶な盛り上がりを見せるこの曲の意外な結末……。
映画が興行的に成功しなかったこともあり、全米チャートでは、なんと80位という惨憺たる記録が残されている。

 

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もし、あのステージにローリーの姿とパフォーマンスがあったとしたら……。


結局、ファイアインクとしての成功もしなかった彼らだが、この曲はなぜか日本のMTVではそれなりのローテーションに入り、映画もそこそこに盛り上がった。
そして、この曲は日本人歌手によるテレビドラマ主題歌として、日本ではカヴァーが大ヒットしてしまうのである。

 

セカンドアルバム「コンフロンティション」で彼らは、自分たちの音楽に立ち返る。
そこにあったのは、ファーストアルバムから、「10-9-8」と「アンダー・ザ・ガン」をマイナスした音世界だった。


プロデューサーのアレンジに我を失うことなく、映画のようなフィクションの世界で遊ばされることなく、本来の音を取り戻したのだ。
たが、一度失った聴衆だけは、二度と彼らの手に取り戻すことはできなかったのである。

 


 

 

クラウス・ノミ KLAUS NOMI

クラウス・ノミはロボットだった。

 


Klaus Nomi - Total Eclipse 1981 Live Video HD

 

失敗した鉄腕アトムのようなその髪型、巨大ハンガーにかけられたようないかり肩の衣装、デカすぎる蝶ネクタイ。まるでマンガの世界から飛び出したようなスタイルである。

 

そして、その歌は宇宙からきた放射線を浴びて、オペラ歌手がテクノに突然変異したような異様なものであった。

 

ジャケットに見る動かぬ彼の姿は完成されすぎていて、まるで燃料を抜かれて静止した人型ロボットのようだった。
ロボットの口から正確に刻むように繰り出される音が彼の歌だった。

 

そのノミがヒトとして動く姿が見られる。それがSimple Manクリップの価値である。
そして、動くノミの姿は……。

 


Klaus Nomi - Simple Man

 

カウボーイのような帽子をかぶり、ジーンズに皮ジャン姿。
このとき、「ああ、ノミはロボットではなかったんだ、そのまんまの姿で生活する人間だったんだ」とあらためて、思い直した。

 

が、

 

しかし。パーティーのシーンで、いかり肩の衣装でぎこちなく動く彼の姿は、やっぱりロボットだった。はたして彼は人だったのか、ロボットだったのか。

 

私がこのクリップを見たとき、ノミはすでにこの世にいなかった。

 

彼は「エイズで死んだミュージシャン第一号」という肩書きとともに、この世には亡き者となっていた。

 

もし、彼が人ではなかったとしたら……。

 


Klaus Nomi - Nomi Song 1982 (re-up)


どこかのスクラップ置き場で、解体された喉から取り出された小さな部品が、今もあの高音を鳴らしつづけてはいないだろうか。

 

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I Feel Love/BRONSKI BEAT and MARC ALMOND~道化師の化粧の奥~

「スモールタウンボーイ」での登場以降、シリアスな雰囲気をクリップにも展開しつづけたブロンスキ。


ここで突如、弾け飛んだかのような軽快なコメディを見せたのが、このクリップである。


しかも、先行したアルバムのヴァージョンとは異なり、ヴォーカルはジミと元ソフトセルのマーク・アーモンドのデュエットという、一部の好事家にはたまらないマニアックな組み合わせだ。

もちろん、私はこの「ゲテモノ的共演」に狂喜乱舞したクチである。

 


Bronski Beat & Marc Almond - I Feel Love

 

このクリップを見るかぎり、これまでの彼らが伝えてきた「怒り」も「哀しみ」もどこにも見当たらない。
画面から見えてくるのは、「ワルノリする学生のコンパ」のような風景だ。


しかし、そのバカ騒ぎに「自嘲的」なものが見えるのはなぜだろう。
彼らが「お呼びでない道化師」「場違いなコメディアン」に見えるのはなぜだろう。
彼らの作り上げた、あまりに精密な私的フィクションに私こそがだまされているのだろうか。


しかし、この演技を彼らがシニカルな視点なしにやったとはどうしても思えないのだ。
道化師がもし、化粧を落としたとき、その素顔も笑っていると誰が断言できるだろうか。

 

それにしてもこの2曲をメドレーにしようという感性は凄いと思う。

 


Donna Summer - I Feel Love (Live)

 


John Leyton - Johnny Remember Me

 

 


 

NO MORE WORDS/BERLIN~私たちに明日はある~


Berlin - No More Words

映画「ボニー・アンド・クライド(俺たちに明日はない)」をモチーフにしたクリップは、演奏シーンがまったくないにも関わらず、バンドの魅力を見事に伝えている。


結局、ベルリンの魅力を伝えるには、ヒロインであるテリー・ナンを、男たちが命を賭けて輝かせるという手法が一番なのだ。

 

その時、テリーは…何をしていようが関係ない。

 

マイクを持っていてもいい、銃を持っていてもいい、はたまた芸者であってもいい。
要は、彼女の魅力を存分に伝え、そして、男たちがテリーをサポートする姿の魅力を伝えればいいのだ。

 

そういう意味で、このクリップは「歌うテリーのバックで演奏する男たち」を、「銃を持つテリーを守って銃を抜く男たち」に置き換えた名作。


そして、この曲のチャートインを足がかりにベルリンは、ヒットグループへの階段を上り始める。


最後のシーンを見ればいい。
ボニーとクライドは蜂の巣の終焉を迎えるが、テリーは夕暮れの中、銃を空に向け続けているのだ。


この時、ベルリンにはたしかに明日あった。

 

 

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フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド FRANKIE GOES TO HOLLYWOOD

フランキーはハリウッドへ行く。
たった一曲のメロディを口ずさみながら。

 


Frankie Goes To Hollywood - Relax (Restored Version)

 

80年代の音楽シーンを支えたアイテム、ビデオクリップと12インチシングル。
そのどちらにも、大きな戦果をあげたのがリバプール出身の5人組、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドだ。

 

中でも、デビュー曲「リラックス」のクリップは、私の知る限りで4つのシチュエーションがあり、そのうち2つは長さによるバージョン違いもあったように記憶している。

 

彼らの音は確かにカッコイイ。「恰好」でも「かっこ」でもなく、「カッコ」イイ。
さらに、スキャンダラスな行動やエピソードのすべてが、カッコよかった。
次々と繰り出される同曲異アレンジのシングル群。

「FRANKIE SAY・・・」のロゴTシャツ。

 

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Frankie Goes to Hollywood - Wikipedia

 


デビューから三曲に設定された「セックス」「戦争」「愛」という、重厚なテーマをチープに演奏してちゃかしてしまうそのセンス。


すべてカッコよかった。なんと、彼らはゲイという性癖をファッションのひとつにまでしてしまったのだ。


だが、そこに彼らの意志はなかった。

 

敏腕プロデューサー、トレヴァー・ホーンの玩具として、世界的に語り継がれるフランキーは、トレヴァーが世界をまたにかけて引き起こした悪戯の道具だったのかもしれない。


悪戯の道具が自らの意志をもち、「レイジ・ハード(猛威を振るう)」しようとした瞬間、世間はその悪戯のからくりに気付いてしまったのだ。

 


Frankie goes to Hollywood - Rage Hard 1986

 

玩具は玩具。
道具は道具。
人形は人形。

 

どんなに美しい人形も自らの意志を持った瞬間、人からは異形のものとして気味悪がられる。


その行く末は、部屋の片隅にあるごみ箱の中にしかない。意志を持ったフランキーは、世間にとって異形であるゲイだった。

 

フランキーは二度と帰ってこなかった。

 


 

 


 

 


 

 


 

 


 

アズテック・カメラ AZTEC CAMERA

サラサラヘアーに星がキラキラ輝く大きな瞳。そして、チャーミングなギターの音。
我々の前に登場したロディ・フレイムは、王子様だった。
しかしなかなかどうして、ネオアコ界の王子は一筋縄では行かなかった。

 

あの頃、デビューアルバム「ハイランド・ハードレイン」からシングルカットされた
「Oblivious」には、「想い出のサニービート」という邦題が用意され、夏のビーチへ向かう車のカーステレオからは、その明朗なメロディが流れていた。

 


Aztec Camera - Oblivious (Official Video) (REMASTERED)

 


 


ちょっとオシャレでポップ。そんなこの曲の歌詞の一節を見たことがあるだろうか。

♪君が泣いている姿を見ると ぼくは君の友達を殺したくなるんだ♪

王子はいつも、イギリス人ならではの視点を捨てずシニカルな笑いを浮かべていた。

 

そして、セカンドアルバム「ナイフ」の成功で、王子がその地位を確立したと思われた途端、
「ジャンプ」がリリースされた。

 

透き通るメロディ、神経質な歌詞、マッチョとはかけ離れたアズテック・カメラの王子様が、当時大ヒットしていた、ヴァン・ヘイレンのカヴァーをしたというのだ。

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あのブリティッュでナイーヴな王子が、よりによってあまりにも陽気でアメリカンな
「ジャンプ」をカヴァー? 

 

「ジャンプ」と言えば、ギターはやりすぎなまでにテク自慢をしているし、間奏に入るシンセサイザーはうるさいくらいのテク自慢。
そして歌うのは、どう考えても王子様とは言語体系も思考回路も相容れない、ワイルドマッチョマン。

 


Van Halen - Jump


しかも、シモネタ大好き。一体、王子様にどんな変化がおきたのだろうと、心配したものだった。

 

だが、王子は嗜好が変化したわけでもなければ、シニカルな視点を捨てたわけでもなかった。


王子の手による「ジャンプ」は、それはそれはものすごいエッセンスで香り付けされた名曲だったのだ。


本人曰く、「ある時、この曲のメロディラインがとってもメランコリックなものだと気付いたんだ」
というのが、この曲を選んだ理由だったという。

 

そして、王子に色づけされた「ジャンプ」は、原曲のメロディを破壊することなく、素晴らしくメランコリックな曲に仕上げられた。


それはイギリス人ならではの「まったく飛べないジャンプ」であった。


Aztec Camera - Live La Edad De Oro - Jump