The Love Cats/CURE, THE~捨て猫の集まる死臭のない町
まさか、キュアーがこんなアプローチをしようとは、「ポルノグラフィ」を聴いていたファンは夢にも思わなかったことだろう。
しかも、ロバート・スミスがこんなに明るいオトコだったなんて。
それまでの、陰鬱なイメージではなく、楽曲自体に町や都会を感じさせる匂いの溢れたこの曲は、キュアー転換期の貴重な一曲であり、重要なクリップだ。
ただ、その町の匂いも、いきなりシャカタクのような方向に行ったりはしない。
クリップにうじゃうじゃ登場する猫のごとく、捨て猫が集まる町の匂いだ。
なんともいえない切ない倦怠感や、アングラな匂いはどこかに残っている。
なくなったのは、初期キュアーが持っていた死臭だ。
ロバート・スミスの絶対といっていいくらい、カメラを見ようとしない宙を舞う視線は一体何を見ていたのだろう。
CD/ザ・キュアー/グレイテスト・ヒッツ
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Where's Romeo/CAVA CAVA~よい子のみんな~、げんきかなぁ~?
声は偉大な武器になる。
シーナ・イーストンのコケティッシュな高音を聴け、アニー・レノックスのソウルフルな声を聞け。
しかし、その武器は両刃の剣である。
サヴァ・サヴァと聞いて思い出せない人も、もしかしたら、ヴォーカルのスティーヴンの声を聞いたら思い出すかもしれない。
というのも、彼の声は声変わりを忘れた少年の声、そのままだったのだ。
それも、思春期の少年の声というより、幼児の声に近いくらい、ばぶぅな声だった。
結局、サヴァ・サヴァのすべてはその声で決定付けられた。
売り出し方はアイドル、クリップもプリティ。
音楽的には、アルバム中の「バーニング・ボーイ」あたりを聴くと、当時のダンスシーンにはかなり入り込めそうな、陰影の要素ももっているのだが、いかんせん、あの声。
そして、その幼児性を強調すかのごとくアレンジされた「ロメオ」というシングルの選曲。
クリップはまるで幼児番組のようなつくりで、一体、誰を対象に売る気なのかがさっぱり疑問のサヴァ・サヴァであった。
本人たちは「うたのおにいさん」になりたかったのだろうか。
Young At Heart/BLUEBELLS, THE~青春を映し出すロードムービー
当時のクリップにはいくつかのパターンがあって、大仰なドラマ仕立てとスタジオライヴの主流二派に継いで、こういうロードムービー仕立てのものも作られていた。
このクリップはその中でも珠玉のでき。
The Bluebells - Young At Heart (1984) (HD)
メンバーの表情が実に多彩で、爽やかな曲調、楽曲のテーマにぴったりと収まっていた。
イエスの「ロンリー・ハート」のように、クリップが曲とは別の魅力を持ち、ヒットにつながる例も数多いが、クリップと曲とメンバーがここまで一体化した作品は貴重。
このロードムービーにもう少し細かい台本を用意して、やんちゃなメンバーにやらせたら、ローマン・ホリデイの「ドント・トライ・トゥ・ストップ・イット」ができあがるのかもしれない。
★CD/ブルーベルズ/エグザイル・オン・トゥイー・ストリート (解説付/ライナーノーツ) (輸入盤国内仕様)
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Hear It In The Night / ROMAN HOLLIDAY ~サラバ、ハリキリボーイ~
ピンクのジャケット、レザーパンツ、整った髪形、耳にきらめくピアス。
ローマン・ホリデイはこの瞬間、全てを失った。
Roman Holiday - Hear In The Night
楽曲は悪くない。
しかし、世間がローマン・ホリデイに求めたものはこのクリップにはまったく残っていない。
そこにあるのは、個性に欠けるデュラン・デュランや、デキの悪いワム!のような、明らかに魅力不足の空回りした勢いだけだった。
Roman Holliday One Foot Back In Your Door (1984)
ここにはまだ何かがあったのに。
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STILL ON FIRE / AZTEC CAMERA~シニカル・ヒステリー・アワー~
この曲を歌う、ロディ・フレイムの唇の動きは必見。
当時、唇といえば、スティングのトンガリくちばし(コリー・ハートはまんまコピーしていた)、ビリー・アイドルの端っこ持ち上げが双璧で、続いてカジャ・グー・グーの二代目ヴォーカリスト、ニック・ベッグスの歯ぐき剥き出しウッキースタイルがそれに続くかというところであった。
それ以外に唇の形で個性を表現するには、ティナ・ターナーのように下に片っ方引っ張る(ビリー・アイドルの逆パターン)とか、ヘビメタ系アーティストのように、唇の両端を下げるとかいったものになってしまい、スマートとかカッコよさより、汗臭さを思わせるものしかなかったのだ。
しかし、ここでロディのやったこと。
それは、唇の端っこをちょっと横にずらして持ち上げるというスタイルだった。
そう、なんとも嘲笑的な表情なのである。これは、ロディにはぴったりはまった。
しかも、そうすることで口の開け方が完全ではなくなり、音をこもらせる効果まで出たのである。
あまりにもシニカルなその表情とこもった歌声は、ポップなメロディを置き去りにして、この曲の真意を伝えることに成功していた。
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ザ・ポリス POLICE, THE
ポリスの最高傑作「シンクロニシティ」から20年。
The Police- "Synchronicity I" LIVE
あの頃を思い出すと、音楽の主流は「歌」だった。
「歌」にはメロディあるヴォーカルがあり、メロディに乗せた歌詞があった。
いつの間にか気が付くと、音楽は「歌」ではなくなっている。
メロディはバックの音の中に存在し、歌詞にはメロディが消えている。
残ったものは装飾を取り去った話し言葉に託された、装飾された言葉のリズムである。
80年代の音楽は多様に富んでいた。
ひとつのムーヴメントが成熟すると、次のムーヴメントがやってくる。
パンクの終焉にはテクノポップが並走し、テクノポップの衰退にはネオアコが台頭した。
ポリスの音楽的な位置付けはなかなか難しい。
ロックと一言でいってしまえばそれまでだが、メンバーの経歴を考えても、それで済まされるものではない。
敢えて言うなら、「アウトランドスダムール」「白いレガッタ」の時代は、パンクの姿を借りたレゲエ、もしくはレゲエのエッセンスを取り入れたパンク。
[HD] The Police - Peanuts (HP 1979)
The Police - Can't Stand Losing You
そして、「ゼニヤッタ・モンダッタ」の頃からそこにポップスの要素が入り始め、
「シンクロニシティ」でそれらが完成された「ポリス」という音楽になった。
The Police - De Do Do Do, De Da Da Da
そう、「ポリス」とはひとつのジャンルであったのかもしれない。
アウトランドス・ダムール [ ザ・ポリス ]
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白いレガッタ [ ザ・ポリス ]
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ゼニヤッタ・モンダッタ [ ザ・ポリス ]
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シンクロニシティー [ ザ・ポリス ]
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LOVE IS FULL OF WONDERFUL COLOUR/ICICLE WORKS~アメリカ行きの切符を入れるポケットの付いていない服~
Icicle Works - Love Is A Wonderful Colour
このクリップを見るといつも思い出すのは、トーク・トークの「イッツ・マイ・ライフ」のクリップである。
アイドルとして売りたいプロデューサーと、アーティストとして表現したいメンバーのいびつな組み合わせという点が酷似しているように思うのだ。
「もっと綺麗な服を着て歌ってくれ」と懇願するプロデューサーをはねつけて、「普段着で撮影する」とメンバーが言い張る姿が浮んでくる。
そもそも、MTV向けのビデオクリップを作るという時点で、不要だとはねつけるメンバーの姿があったのではないだろうか。
ビデオ自体は本当にどうということのない無難な作品だが、森の中を歩きながら歌うイアンの姿は「俺、なんでこんなことやってんのかなあ」みたいな雰囲気にあふれている。
当然、「ウイスパー」で手に入れたアメリカ行きのチケットは、このクリップで失うことになるのだが、アルバム中、もっとも一般オーディエンス向けの曲でそれを失うあたりが、あまりにもイアン・マクナブらしい。
【輸入盤】ICICLE WORKS アイシクル・ワークス/5 ALBUMS BOX SET(CD)
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