Girl in Trouble/ROMEO VOID~二人のヒロイン
この曲のクリップの制作を依頼されたらどうするだろうか。
そんな監督の苦悩と工夫が、このクリップからは溢れ出してくる。
Romeo Void- Girl in Trouble (is a temporary thing) Mix
曲を聞かされた時点で、このなんともけだるくメロディアスな一曲は、監督の想像力かきたてたことだろう。
しかし、その曲を演奏するメンバーとの初対面。監督は凍りついたに違いない。
ネーナ、ベルリン、ユーリズミックス……楽曲だけでなく、クリップをも武器にしてチャートをにぎわす、紅一点バンドと対抗するにはこのままでは……。
紅一点のビジュアルがすべてではない、どんなにいいクリップを作っても楽曲が伴わなければ意味がない。
頭ではそう理解していたとしても、ダイエットする意志もなさそうな、デボラのルックスには苦しんだはずだ。
しかし、この「ガール・イン・トラブル」は楽曲のよさだけでなく、クリップも評価される作品に仕上がったのだ。
メンバーの姿を見せながらである。
では、いかにして。
それは、素晴らしい手法だった。
ヴォーカリストを壁画のようなスクリーンに閉じ込め、生物として動く、視聴者が感情移入しやすいヒロインを別に用意したのである。
しかも、スクリーンの中の彼女にも唇の動きを与えることで、ヒロインの役割を与えたのだ。
こうして、アーテイスティックな雰囲気のある楽曲にふさわしい、芸術の空気漂うクリップは完成した。
惜しむらくは、曲の二番の部分のフィルムではデボラを普通に動かせて歌わせ、視聴者に現実を現実として見せてしまったことだが、監督としてもそこはいっぱいいっぱいだっただろう。
それに、チャートで30数位くらいのヒット曲なら、このあたりはもっともオンエアそれないあたりだし、まあいいか。
Debora Iyall " A Girl in Trouble" (2009 San Francisco)
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Break My Stride/MATTHEW WILDER~想い出のフワッフワ
MTV全盛のあの時代に、どんなヒットチャート番組でもアルバムのジャケットが映し出されていて不思議でしようがなかったけど、どうやらPV自体制作されていなかったのだと気づいたのはインターネット時代になってからだった。
Matthew Wilder - Break My Stride ( Full & HQ )
あまりにも意外で唐突なヒットで、PV制作する間もなくチャートに入ってしまっていたのではないかと推測。
とにかくなんともいえないフワフワした、人を食ったような奇妙な曲調で、あの時代にまったく即していない、いかにもこの人らしいファッションスタイルも相まって不思議な浮遊感を生み出している。
この曲のPVがなかった憂さを晴らすかのように、続くThe Kid's AmericanのPVはやたらと、国内のMTVで流されていたけど、まあフツウの曲だった。そのあとほとんど見なかったけど、Bouncin' Off The Wallsのほうが、この人らしい一癖はあったと思う。
Matthew Wilder - The Kid's American
Matthew Wilder - Bouncin' Off The Walls
いずれにしても正体不明の一発屋という感じだけ残してさっと消えた潔さのせいで、あの一瞬の時代との共生感が強く、80年代を振り返ったとき、次代にしがみついてイメージを破壊していった往生際の悪い誰かさんたちよりも、却って記憶の片隅から甦ってきやすいという、やはり不思議なフワフワした存在になっている。
I Don't Speak the Language / Bouncin Off the Walls
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2015>>
ちなみに表舞台からは姿を消したけど、制作サイドではむしろ大御所の一角といってもいいのかも。
ディズニーの「ムーラン」のサウンドトラックにプロデューサーとして参加したり、90年代の大物アーティストのプロデュースもしてたりします。
ディズニー・オン・クラシック 〜まほうの夜の音楽会 2016〜ライブ [ (ディズニー) ]
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You Can't Get What You Want/JOE JACKSON~音は後から、でも傑作のライヴクリップ
ジョー・ジャクソンの音楽はクリップを必要としない。
是か否か。
Joe Jackson - You Can't Get What You Want (Till You Know What You Want)
たしかに、彼のルックスは当時のクリップ全盛期にわらわらと湧いて出たミュージシャン群とは違い、そこに付加価値はなかっただろう。
どちらかというと、まず音を聴いてから姿を見て、世間が「えー」と叫んだクリストファー・クロスに近いものがないではない。
Christopher Cross - Arthur's Theme (Best that you can do)
実際、ジョーもこの曲の含まれるアルバム「ボディ・アンド・ソウル」の時期から、明らかな口パクのクリップ作りは止めると宣言していたように記憶している。
そこで生まれたのが、この曲と続くシングル「ハッピー・エンディング」のライブを収めたクリップだ。
Happy Ending - Joe Jackson & Elaine Caswell
そして、その出来栄えはというと……秀逸。実に素晴らしい。
ホーンセクションから入る導入といい、サビ、間奏で入るベースのチョッパープレイ、ジョーの絞り出すように歌う姿、すべてがカッコいい。
当時のライヴ系クリップでは、ベルリンの「ダンシング・イン・ベルリン」と並ぶハイクオリティな一作に仕上がっている。
ベルリンの作品がおそらくメンバーの動きまで計算し尽くしたスタジオライヴの究極なら、こちらはアドリブの「動」を極めた、ホールライヴの傑作だ。
曲の半ばでガラスのコップをヘディングする姿までカッコいい。
ただし、音は後からあわせたスタジオ録音の音っぽい。
出だしから最後まで微妙にずれつづける、音と口の動きはご愛嬌。
逆に考えれば、あとから音を合わせているのに(合ってないけど)これだけ臨場感あふれるライヴクリップに仕上がっていること自体がスゴイ。
ジョー・ジャクソン/ボディ・アンド・ソウル 【CD】
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Just Got Lucky/JO BOXERS~本当の「音楽」は犬にも幸運を運ぶ
音楽は楽しい。
そして、その楽しさは「音」にとどまらず、ファッション、アクション、シチュエーション、音楽を「演る」すべてに表れる。
それが、ジョー・ボクサーズのこのクリップ一本に集約された、音楽の素晴らしさだ。
指先をカットした手袋、すそをまくり上げたダブダブのジーンズ、サスペンダー、ハンチング帽。
いずれも、今見たらダサいといわれるかもしれない、彼らのファッション。
しかし、その姿はクリップの中で今も輝いている。
それは、その姿をした彼らのアクションといきいきした表情、音を楽しむシチュエーションが映し出す魅力なのである。
このクリップでのもうひとつの注目は、メンバーに合わせてハンチングをかぶって登場する一匹の犬。
楽しそうに音楽に反応しつつ、間奏で叩かれるピアノの上に乗っけられたシーンでは、ピアノの音に興奮したのか、吠えつづける姿が収められている。
「なんだかわかんないけどノリノリなんだワン!」
音楽は犬の魂も揺さぶるのだ。
[CD] ジョーボクサーズ/ライク・ギャングバスターズ
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Planet Earth/DURAN DURAN~ちょっとだけ特別なヒラヒラ
デュラン・デュランといえば、当時の洋楽雑誌でいつも比較されていた相手がスパンダー・バレエだった、といって今信じてもらえるだろうか。
洋楽ブームが最盛期を迎えたころ、デュランはUNION OF THE SNAKEでスパンダーはGOLDだったのだから、「え? 比較対象なの?」感はあの頃すでにあったのだから、21世紀の今、そりゃ無理もない。
そもそも比較され始めたのはデビューの頃。
互いにナイトクラビングのムーブメントを支えた、ニューロマンティックの旗手だったのだから。
今になってあらためて見ると、デュランは時代と同世代をうまく取り入れている。
デュランはプラネット・アースでひらひらのシャツ、スバンダーはトゥ・カット・ア・ロング・ストーリー……で、中世貴族のコスプレ。
Spandau Ballet - To Cut A Long Story Short
ヒラヒラのニューロマンティックでも、デュランのものはその時代の若者のファッションとして取り入れやすい感じがある。
対するスパンダーのほうは、ありゃもうコスプレ。日常のファッションムーヴメントとしてはちょっと無理がある。
結局、デュランの人気が世界に広がったのは、どの国でも日常生活で真似できそうな、良くも悪くも俗な範疇にとどめた、「ちょっとだけ特別」の絶妙なさじ加減だったのではなかろうか。
そして近未来を感じさせるこのPVと、明らかに歴史物だったスパンダーのPV。
この差も大きかったろう。スパンダーはやりすぎた。
人には過去を認識する能力はあるけれど、それでも期待するのは未来なのだ。
FOREVER YOUNG::デュラン・デュラン [ デュラン・デュラン ]
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80年代洋楽カラオケについての考察
これだけ80年代洋楽をカラオケで歌える時代がくるとは。
歌い続けてみると(続けてるってところが無駄にポイント)、80年代洋楽カラオケで失敗する「あるある」みたいなネタが出来てくるな……。
せっかくなんで洗い出してみよう! (何のために?)
1. キーが合わない
まあそもそも、カラオケにいかなくてもCD(もちろん昔はレコードかテープね)にあわせて歌えば分るのですが、いざいってみると歌いたくなるもの。
しかもあわないとわかっていてもキーを下げるのってなんか悔しい。
↓
なのでそのまま歌う。
↓
散る。
という、フローチャートが成立します。
ただあまりにもハイトーンで、カラオケメーカーが無理と判断してくれた曲の場合、もともとキーが下がってて自尊心傷つけず歌えるのが最近のカラオケのポイントです。
実例として、意外に簡単に歌えた「テイク・オン・ミー」みたいな経験は誰にでもあると思います。
2. 早口すぎる
英語の場合、日本語よりもひとつの音符に多くの文字が乗るので、早口の早口加減は半端じゃありません。
サザンの「思いすごしも恋のうち」の二番が歌えるからといって、アフター・ザ・ファイアーの「デア・コミッサー(秘密警察)」が歌えると思うのは、
KaraokeTUBE After The Fire .... Der Kommisar
それこそ思いすごし
です。
そもそも、80年代はラップ夜明け前だと思って油断しているのが間違いです。
あれ、もともとは変態奇才ファルコ様のお笑いラップですからね。
Falco - Der Komisar I [Karaoke][QR-Code]
「聴いたことあるし、歌えるだろう」という気軽なノリでいくと、歌い出した途端、
思ったより攻めている自分
に気づきます。
そして、散ります。
もちろんどんなにリスペクトしてても RUN DMC もタブーです。
Karaoke Box - Walk This Way (In The Style Of / Al Estilo De : Aerosmith Feat. Run D.M.C.)
最近の若い子たちのようにラップに生まれ、ラップと育った世代とは違うんです。
だって、
俺は「ブルーライトヨコハマ」とともに生まれ、「三年目の浮気」なんかとともに育っているわけですから。
それでもどうしてもラップを歌いたいという場合、おすすめは「ウエスト・エンド・ガールズ」です。
あのゆる~いラップなら何とかついていけます。
[Karaoke] West End Girls - Pet Shop Boys
あと意外に歌いやすいのが、ロックウェルの「サムバディズ・ウオッチング・ミー」です。
Karaoke Somebody's Watching Me - Rockwell *
本人は、ファーストアルバムの
「マイケル次は俺の番だ!」というド派手なキャッチコピーとともに登場し、
セカンドアルバムの
「俺が時代の音だ」というコピーとともに消えていく
という
わかりやすい一発屋感
をほとばしらせてましたが、そもそもモータウンの御曹司かなんかだったので、別にどうでもよかったんでしょう。
そんなことより、そもそも、
こんな歌がカラオケにあることが驚きでした。
歌ってみた自身の行動も謎です。
3. 異国の言葉
洋楽カラオケですから、そもそも英語なのは当たり前。
ここでいうヤバイのは英語以外の国語です。
もし学生時代に第二外国語に専攻していて、しかもまじめに勉強していたら、歌えるものなのかもしれませんが、私はカラオケボックスで、
いくつもの屍を見てきました。
しかしそこには、
屍はいくつもあるが、レクイエムはいつもおなじ曲
という法則があります。
女性の場合は「99ルフトバルーンズ(ロックバルーンは99)」
Karaoke 99 Luftballons - Nena *
男性の場合は「ロック・ミー・アマデウス」
Karaoke German Falco Rock me Amadeus
です。
後者はラップでもあるので、ハードル二倍増しです。
ただ前者はカラオケで選曲すること自体、
「うかつだが妥当」
という微妙なラインであるのに対し、後者は、
そもそもそれをカラオケで歌おうと思った勇気
は称えてあげるべきかもしれません。
ところで以前カラオケのデュエット曲として、「それはそもそもカラオケにないだろ」と、だだツッコミしたアニモーションの「オブセッション」がカラオケにあることが判明しました。
SC8482 04 Animotion Obsession [KARAOKE]
アニモーションのみなさんにお詫びする前に、選曲基準を製作者に訊いてみたい気持ちでいっぱいです。
Vol. 4-80's-Billboard Top 10 Karaoke【中古】
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Eye Talk/FASHION~場末の踊り子の場末の恋人
安っぽい場末のディスコに、安っぽい役者、安っぽいドラマ。
Fashion - Eye Talk (Alan Darby on vocals)
そんなチープさの中に、このクリップの完成度の高さがある。
ハイトーンなヴォーカルだが、この手の声によくある繊細さや痛みを伝える種類の力を持っていない。
だからこそこのグループに迎え入れられ、それを元にこのクリップは誕生したのだ。
部屋を出て行こうとする彼女を歌いながら引き止めるその姿はまだしも、歌っている全身が小刻みにリズムを取っているところに、このクリップを見ていると踊りだしたくなる魅力がある。
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