Strip/ADAM ANT~裸になった王子様が教えてくれたもの
アダムの国の王子様に魅せられた庶民の娘たちにとっては、このPVはホント封印してしまいたい一本かもしれない。
イントロからの入りは相変わらずの馬に乗った王子様なのだが、なんというか場面が進むにつれ、王子様が少しずつ壊れていく。
Stripというタイトルに合わせて全体に女性のチラチラシーンが続くものの、曲調もあいまってまったく色っぽくはなく、ましてや妖艶でなどあるはずもない。
なんだか場末のストリップ仕立てのコントの舞台を見ているようだ。
途中に入るサイコのようなシャワーシーンにも、原典のあの怪奇感はなく、そしてアダムはどんどん壊れていく。
もう二番のアラビア風の衣装なんて、東京コミックショーにしか見えない。
それでもアダムは突き進む。
最後はシャワーシーンの種明かしも、まるで楽屋落ちのNG集のような形でおしまい。
この頃すでにかなりデコにキテるけど、王子、頭髪は水にぬらさないほうがいいですぞ。
そしてこのPVを見た結論として、あらためてこれを機に見直してみた東京コミックショーはおもしろい。
裸になった王子が教えてくれた、昭和の貴重な財産だ。
ベスト盤にもこの曲ちゃんと残してくれるアダムがなんだかえらい気がします。
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Lucky Star/MADONNA~あの夏の日のWANNABES
サイボーグになる前のあの娘は、ぷにぷにしたお腹を見せて僕たちの前で淫靡な踊りを見せてくれた。
だがその踊りはどこかエロティックでもフレンドリーで、僕たちよりも感化されたのは、ティーンの少女たちだった。
WANNABES──そう呼ばれた彼女たちは、あの頃の彼女たちにとっての憧れのマドンナの姿を真似た。
ライオンのようなワイルドなブロンドに、黒死蝶のようなリボンを巻き、そしてウェイファーラーのフェイクグラスを鼻に乗せるように下にずらしてチューインガムを噛んだ。
僕たちは街に溢れる彼女たちの黒い革のライダースの下にのぞく、メッシュのタンクトップの下の白い肌を眺めていた。
彼女たちがダンスを真似て少しでも動くと、そのタンクトップの下からちらりと見える白いお腹に僕たちは何かの夢を見ていた。
だけどMADONNAはストリートファッションをやめて、ピンクのドレスに身を包む。
そしてみずからの体を鍛え上げ、サイボーグのような女に変化した。
彼女たちの憧れは、もう簡単に真似のできる存在ではなくなっていた。
WANNABESはクローゼットの奥にしまい込んだ、メッシュのタンクトップを手に取って、あんな日々もあったなあと思い出しながら、幸運の星の下に生まれた女神様をうらやむのだった。
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Train in Vain/CLASH, THE~後世に遺したい“へにゃへにゃ”
The Clash - Train in Vain (Live at the Lewisham Odeon)
この曲はアルバムリリース時、クレジットに表記がなく、隠しトラックとして騒がれたらしいが、実際のところは単に印刷に間に合わなかったとかなんとか。
まあ、そんなことでも話題になった一曲だ。
そのため正式なタイトルがあるのにサビで繰り返されるスタンド・バイ・ミーのフレーズを曲名だと思っているファンも多いだろう。
たしかにスタンド・バイ・ミーは、あのスタンダードナンバーもあるし、のち映画もヒットするからキャッチーなタイトルではある。
そこを敢えてこんなタイトルにするところが、らしいっちゃらしい。
そんなことより何よりも、この曲を聴いて湧いてくる感想は、
へにゃへにゃ
こんなにへにゃへにゃした曲、そうそうない気がする。
というか、へにゃへにゃしてるのは、MICKのヴォーカルなんだよね。
とにかくこの曲に限らず Should I Stay or Should I Go ? にしろへにゃへにゃ。
The Clash - Should I Stay or Should I Go (Live at Shea Stadium)
そしてこのフイルム、曲に合わせたMICKのその動きまでへにゃへにゃ。
とにかくへにゃへにゃなのだ。
もうこの曲は、俺史上最高のへにゃへにゃ。
グラミー賞に“へにゃへにゃ部門”があれば受賞確実。
“後世に遺したいへにゃへにゃロック100”なて企画があれば間違いなくトップ1.
ポイントはクネクネとかぐにゃぐにゃとは違うところ。
あくまでへにゃへにゃなのだ。
THE CLASHにしては珍しいラブソングというのも、その曲調に影響しているのだろうか。
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The Lion's Mouth/KAJA GOO GOO~誰が噛まれた? ライオンに
気を付けなよ。
ライオンに噛まれてしまうよ。
君はシャイすぎるよ。
なんてシャイなんだ。
秘密なんだね。
とてもおなじバンドの歌う歌詞とは思えない。
だけどLIMAHLというたった1ピースが欠けただけで、彼ららはこんなに変化してしまった。
なぜなら彼はフロントマンだったからだ。
銃殺を連想させる行列の目隠し、火炎放射器、このPVが放送禁止になったというのは、おそらく第二次大戦中のナチスドイツへの連想があったからではないかと推測する。
ただ歌詞も映像もシリアスだが、そのPVのメインを張るメンバーの演奏シーンはかっこいい。
前曲では演奏シーンのないPVだったが、まだNICKは四弦のベースギターを弾いていた。
このPVで、のち彼の代名詞になるチャップマンスティックが登場するのだ。
初めて見る楽器でどうやって弾いているのかもわからなかったけど、とにかく憧れた。
ただそれまでの余韻を買ってヒットしたと違い、この曲でバンドはチャートと決定的な訣別への道を進むことになる。
曲からもメロディアスなシンセのフレーズは消え、そしてとろけるようなLIMAHLの甘いボーカルはNICKの硬質なものにかわり、そして歌詞も。
もともとLIMAHLをあとから参加させて出来上がった五人が発表した作品は、NICK率いるオリジナルKAJA GOO GOOの本質ではなかったことは想像に難くない。
あの形はLIMAHLを入れることで、大人たちがチャート向けに完成させた作品だったのだ。
そしてそのスタイルで人気を博してしまった以上、彼らの人気を支えていたのは、ティーンの女子たちだ。
実際日本でもそうだった。
NICKにとってはLIMAHLがいなくなれば、この傾向になるのは当然だったに違いない。
しかしその旗の進軍先に、五人のKAJA GOO GOOのファンたちはついてきてはくれなかった。
そこにNICKとは違う、プロデューサーの手によって造られたグループだったKAJA GOO GOOの悲哀がある。
結局、ライオンに噛まれたのは誰だったのだろうか。
気を付けるべきは何に対してだったのだろうか。
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SPANDAU BALLET スパンダー・バレエ
Spandau Ballet - To Cut A Long Story Short
デビュー当初大仰な中世貴族風衣装に身を包み、エキゾチックで浪漫的な時代を超えた独特の世界観を展開した彼らだったが曲調そのものはダンサブルなクラブミュージックとドラマティックなバラードが主軸で、別にそんなイメージ戦略をとることが必須だったわけではない。
では、なぜあんなスタイルを選んだのか。
あれは、かのスティーヴ・ストレンジのあやかしの魔法が紡ぎ出した、ニューロマンティックというカルチャーが生み出した賜物だった。
デビュー当時成人するかしないかのメンバーにとって、仲間と集ったクラブは楽しい場所だったことだろう。
そして彼らは音楽ができた。
ゲイリーが曲を書き、トニーがあのオペラチックなヴォーカルで表現し、そのとき彼らは夢中になったクラブの流行だった過剰なファッションに身を包んでステージに立った。
表面的にはそれだけのことだった。
しかし彼らにはあの選択肢を選んだ真の理由があった。
あのスノビズムに満ち満ちた衣装という決断の裏には、フロントマンのトニーのルックスがあったのではなかろうか。
たとえばバリバリのメイクでパペットになりきったスティーヴ・ストレンジや、唇を赤く塗り中世的な美少年を演じたニック・ローズ、ヒラヒラの衣装を着たアダム・アントたちのような中性的な線の細さはなかった。
Adam & The Ants - Kings of the Wild Frontier
70年代主要ロックのゴリゴリしたむさくるしさに男どもが群がったのとは一線を画した、女の子たちのワーキャーの先にあったのは、あのファッションであり、女子のような男たちだった。
比してトニーはモデル張りの二枚目だが、いわゆるガタイのいい英国紳士だった。
それを活かすためには、あの路線が最適だったのだ。
そういう意味では洗練されていたとはいえ、スパンダーはいわゆるアイドル的な印象はなく、ニューロマンティックとして括られたニューフェイスの中でも、衣装と相まって格調高いとでもいいたくなる一種異様な存在だった。
そのライバルとして比較された対象があの DURAN DURAN だったというのは、今となっては不思議でしようがないが、チャートアクション的にもタイミング的にも2トップ的に祭り上げられる空気ができていたのだろう。
Planet EarthとTo Cut A Long Story Skortを比べてみると、両社の違いは歴然だ。
ルックスという要素が影響して、デュランは音、衣装ともにヴィサージ寄りで、スパンダーは音に関してはABC、衣装に関してはジ・アンツ同様コンセプト重視の方向性になったのではないだろうか。
ただあの中世貴族趣味は、デュランの普段着よりちょっとオシャレなクラブウェアとは違って、あきらかにコスプレの域に足を踏み入れていた。
さすがにこれではイカン。
いつまでもこのままいくわけにはいかない。
メンバーにそんな思いもあっただろう。
デーモン小暮閣下が証明するように、本業の音楽に真の実力があるという条件付きで、何が何でも貫けばそれは定着するといえる。
しかし、それはあとになって証明されることであり、当時の音楽シーンは、ジャンルがひととおり出尽くした感のある現在と違い、プログレからパンク、テクノ、ニューロマンティックと次々とムーブメントが起き、さらにまだ新しいものが生まれくる余地があった。
貴族の夜会服はもちろんのこと、ニューロマンティックというムーヴメントそのものにもしがみつくことは危険だった。
一歩間違えれば、氏神一番になってしまう。
そして、スパンダーは夜会服を脱いだ。
Spandau Ballet - Chant No 1 (I Don't Need This Pressure On)
次に選んだのはファンクに近づいたダンスミュージック、そしてスーツ。
これは見事に響いた。
デビュー時の時空を遡ったように妖しいエキゾチックな色彩を剥がし、よりソリッドによりダンサブルにナイトクラブを舞台に繰り広げられた音。
そしてトニーが着替えを選択するのなら、これしかなかったといわんばかりの正統派スーツスタイル。
その路線はハマり、彼らはさらに高みに上っていく。
一世を風靡し、今もスタンダードとして残るバラード True が大ヒットしたころにはスーツ姿でのびのあるオペラチックなヴォーカルを紡ぎだすトニーは神々しくさえ見えた。
これこそ中世貴族のコスプレを脱して以降の、現代版スパンダーのひとつの完成形だった。
だが、歯車はくるい始める。
Spandau Ballet - Only When You Leave
次のアルバムから最初にカットされた Only When You Leave のトニーは、革ジャンの下に白いシャツを着て、その後ろ髪は無造作に跳ね回っていた。
それでもそのPVの中、メロドラマっぽいシーンのトニーは、これでもかというくらいバリバリに英国紳士らしいスーツ姿を見せてくれていた。
こちらのほうが彼らの真の姿だ。
そう信じたかった。
Spandau Ballet - Highly Strung
往々にして嫌な予感ほど当たるものだ。
Highly Strung で見せた彼らの姿は、スーツを着崩した、当時どこにでもいそうなヤングガイズの姿だった。
まあいうなれば一世風靡セピアみたいなもんだ。
曲はめちゃくちゃにかっこいいし、香港らしき舞台で、二枚目マーティン・ケンプが現地の女優と恋に落ちるストーリーも陳腐といえば陳腐だが、疾走感のある曲に合わせてよく仕上がっている。
しかしそこにはデビュー時の幻想的で浮世離れした、ほかの誰にもないあの路線から続く彼らならではの個性は消えていた。
今になって思えば、初期の個性を残しつつモデルチェンジしていった中で、曲とPVを両立した完成形は、Gold だった。
そこを通り過ぎてしまい、彼らは迷走し始めていたに違いない。
Only When You Leave のPVはどんなに素晴らしくても、あの初期スパンダーの個性だった、エキゾチックな歴史と英国伝統の正統派紳士のにおいを感じることはできなくなっていた。
恋した貴族が爵位を放棄して、民間女性と恋をする。
そんな歴史上のドラマのように、彼らはあの個性的なスノビズムを脱ぎ捨てたのだ。
そしてロマンティックな伯爵様は、その地位を放棄したことで、世間から忘れ去られていく。
──恋に生きた伯爵様は、たぶん今頃幸せに暮らしていることでしょう──
Spandau Ballet - I'll Fly For You
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Girls On Film/DURAN DURAN~一足早く解放された思春期
青春期、両親が寝静まった金曜の深夜。
僕はビデオデッキのカウンターが録画を示すカウントアップをしているにも関わらず、ひっそりと一人、テレビのあった部屋で画面を食い入るように見つめていた。
流れてくるのは憧れのスターたちが、歌い踊り、ときに大根芝居を見せる映像だった。
そうPVだ。
録画しているのだから、明日午前中で終わる授業を終えたら、飛んで帰って堪能することは毎週の日課になっているのに、それでも録画しながらも見たいほどはやる気持ちは抑えられなかった。
今ほど情報が多くなかったあの頃、どんなPVがかかるのかわくわくして待ち、そしてお気に入りのPVや大好きなバンドの新曲が流れた時は、それはそれは嬉しくてうれしくて、深夜に昇天しそうな日々だった。
番組は午前三時前までのプログラムだった。
スタートから三十分経過して十二時が近くなると、そろそろ寝なきゃ、そろそろ寝なきゃ。
明日の午後にはおなじものが見られるのだから。
何度そう思っただろう。
だけど次の一曲がまたお気に入りだったりすると、この曲だけ……となってしまう。
それを繰り返してついつい一時が過ぎ、二時近くなり……ただ好きなものに熱中するだけで、時間が流れていたあの頃ならではだ。
そんな真夜中に、思春期の少年たちの目を覚ましたPVがこれだった。
Kevin Godley 10cc Talking About the Video Girls On Film.wmv
家族が寝ていることは確認していても、ついボリュームを絞ってしまう。
曲自体はそもそも英語だし、何も特別なものではなかったのに、このPVはすごかった。
「グラビアの美少女」という邦題は、現代をすごく上手に意訳している。
だがそんな爽やかなタイトルとはまったく関係なく、ビデオの中で繰り広げられるキャットファイト。
それにしてもなんでこんなPVを作ったんだろう。
見たくて見たくてしょうがなかったけど。
一応ソフトなバージョンだったり、さすがに放送禁止になるのはわかったうえでのことで、代作も作られていた。
このころの Andy ってば、その後とはまるで別人。
いかに初期はレコード会社が主導権を握っていたかわかる。
この曲を含めて、ヒット曲が出たから、彼は本当の自分に戻れたのだろう。
Duran Duran - Girls On Film (Live Arena) - (1983) HD
でも深夜の僕たちのほうが、一足早く自分を開放させてもらったよ。
この一本のおかげで、さ。
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Hold Me Now/THOMPSON TWINS~ギリギリのバランスを保ったトライアングル
80年代の人気アーティストの中で、驚くほど再評価の兆しが見えないバンドだが、あの頃たしかに彼らは DURAN DURAN や CULTURE CLUB に並ぶ人気を誇っていた。
日本での人気はとりわけハンサムな TOM に集まっていて、まさに洋楽アイドル的なポスターが雑誌付録になったりしたものだ。
三人編成のこのグループ、結成当初は七人の大所帯で、リズミカルなダンスミュージックでありながら、初期からエスニックな要素はビシビシで、このアルバムまでがその全盛期ではなかろうか。
大ヒットを記録し、バンド自体の人気を一気に押し上げたこの曲もミドルからスローテンポで穏やかな曲調だが、どこかどこかエキゾチックで、アフリカ大陸の民族音楽を想起させるアレンジ。
ブルーのバックに緩いリズム。
そんな曲に乗って、これも緩やかに動くメンバーたち。
もともと彼らの曲はもっとテンポも速くて、こういう曲は珍しい部類。
ギリギリのバランスを保った三人の関係が、おそらくもっともうまくいっていたからこそ生まれた、ゆとりを持った一曲だと思う。
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